結婚当初は寛大だったらしい。「サクラも忙しいんだし、俺もできるだけ家事をやるよ」と言っていたという。しかし、3か月をすぎた頃、朝起きると彼は風呂場にいた。「鏡の汚れって己の汚れなんだよ、こういう細かい汚れ気にならないわけ? 信じられない」と吐き捨てながら、小さな水垢汚れを『劇落ちくん』を駆使して磨く彼がいた。
そこからは早かった。「ゴミを捨てたら、ゴミ箱をこまめに拭け」にはじまり、鍋の磨き方、靴の磨き方、シーツの変え方まで厳しく指導された。調味料の瓶を毎日磨いて揃える、献立の構成(肉と魚の比率など)のダメ出しが続いた。
「俺はスポーツ選手みたいに体が資本なんだから、体調管理はお前の仕事だ」
「堅実で、節約上手で男をたてる専業主婦が理想。働きたいなら家事を俺の納得いくレベルにこなしてからなら考えてやる」
ハイスペの中には、「金を稼いでいるから俺は偉い」というスタンスの人間は多い。しかし、ここまで威張り散らすのも珍しい。結婚ゴールへのテクニックは一流だったサクラは、結婚前に彼の本性を見抜けなかったことを後悔している。