◆大谷にとって騒ぎすぎない環境は望ましい
たとえば2003年に松井秀喜がNYヤンキースに移籍した際には、キャンプインに200名を越す日本報道陣が殺到。取材パスの下りなかった媒体は、脚立を使ってスタジアムの外から練習の様子を撮影するほどだった。
また、2007年に松坂大輔がボストン・レッドソックスに入団した時は、日米合わせて300名のメディアが集まり、ファンはネットに鈴なりになってWBCでMVPに輝いた注目投手の一挙手一投足を追っていた。
いずれの場合も現場は大混乱したため、同じ轍を踏まないよう、エンゼルスがそのための準備をする必要性は理解できる。ところがキャンプ序盤の様子は、そんな規制が虚しく思えるような状況だった。
キャンプイン3日目の16日。ミード広報部長に「残念ながら全米が注目しているという状況ではないようですね」と少し意地悪な質問をしてみると、「まだこれからだ」という答えが返ってきた。
「前日の15日は、カブスのダルビッシュが初めてブルペンに入って、日本の報道陣の中にはそちらに取材に行った方もいたでしょうし……。取材のやり方にもついても今後、スプリングトレーニングが進む中で、お互いにやりやすい方法を模索していきたい。そしてシーズン開幕に向けて我々は、大勢のファン・取材陣を迎える準備ができています」(ミード広報部長)
確かに、野手陣がキャンプに合流すればさらに活気が出るだろうし、23日にオープン戦が始まれば、地元ロサンゼルスからさらにファンも駆け付けるだろう。そして何より、大谷自身にとって二刀流に集中するためにも、騒がしすぎない環境は望ましい。それが、ヤンキースやレッドソックスといった人気チームではなく、エンゼルスという中堅チームを彼が選んだ理由の一つであると想像できるからだ。
ただ、大谷ファンを含めた日本の野球ファンが、現状を正しく認識しておくに越したことはないだろう。
大谷はまだ全米を熱狂させてはいない。シーズンで二刀流を実現させたとき、初めて全米中が彼に熱視線を送るのだ。
撮影■黒石あみ