山田:佐藤先生が言うように、病気と「闘おう」としている人は多いですな。それでも、やっぱり最終的には受け入れていくしかない。生老病死は人の定めです。生きることは死ぬことと同義ですわな。いくら死にたくないともがいても、必ずその瞬間はやってきます。
せやけど、死ぬこと自体が苦しいんじゃないんです。仏教では「我執」というんですが、死にたくないと執着してじたばたするから苦しくなる。
佐藤:大事になるのは、先ほどお話し頂いた「転依」の考え方ですね。がんなどの病で死を迎えるのはつらいけれども、心を整えて準備する時間があるという意味では突然死より幸せかもしれないと肯定的に受け止めることができる。ですが長老、私にはまだ死ぬ覚悟はできていません。
山田:だからこそ、生きている今を大事にしなさい、ということですな。普段から自分を見つめ、死を見つめて生きていくしかありません。その助けになるのが、生んでくれた両親や祖父母、先祖を思って手を合わせることです。誰のおかげで「今」があるのか。そこに感謝することが大事やと思います。
●やまだ・ほういん/1940年岐阜県生まれ。1964年龍谷大学文学部仏教学科卒業。薬師寺副住職、管主などを経て、現在、薬師寺長老、奈良喜光寺住職。
●さとう・よしゆき/1953年広島県生まれ。1977年慶應義塾大学医学部卒業。新横浜母と子の病院診療部長などを経て、現在、日本橋清洲クリニック院長。
※週刊ポスト2018年3月2日号