「命てんでんこ」の教えは、三陸沿岸に暮らす子供の間に浸透していた。毎月1回、必ず行う防災訓練では、地震、火事、津波とさまざまな災害を想定し、避難ルートを多数準備。繰り返し行うことで子供たちの体に覚えさせた。

「地震後、校舎に集合し、ご近所のかたの『すぐに逃げろ!』という声に、一斉に高台を目指しました。0~2才児は、保育士が背負って、その他の子供たちは皆、徒歩や駆け足で山を登りました。山道の先には、すでに近くの小学校の児童たちが歩いていて、後ろを振り返ると、河岸の堤防を乗り越えた海水と泥土が、一気に町をのみ込むのが見えました」(坂本さん)

 迫り来るどす黒い水と火災。さらに冷たい雪が降りはじめ、寒さで疲労が加速する。そんな過酷な状況の中で、大人の誰もが驚かされたのが、子供たちの冷静さだったという。

「山には園児や小学校の生徒300人ほどの子供がいたのですが、パニックの子や泣いている子供は1人としていませんでした。先生がたが指示するわけでもなく、年長の子供は自らの意思で幼い子の手を引き励まし、小さな子供は訓練通りに自らの足で懸命に山を登っていました。子供たちの冷静さが何よりの救いでした」(坂本さん)

 岩手県内353か所の保育所で、震災時に保育中だった園児はおよそ2万人。職員含め、犠牲者はゼロ。命てんでんこの教えは確かな形で実を結んでいた。

※女性セブン2018年3月22日号

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