母に手を引っ込められると、ふと娘の幼少期を思い出す。
今19才になった娘は少々晩熟で、いつも私の手にまとわりつく子だったが、確か10才頃、夜の横断歩道で、何気なく隣を歩く娘の手に自分の手を絡めようとすると、「恥ずかしいからヤダ!」と手を引っ込められた。その瞬間、絶望的な喪失感と寂しさが全身に走ったのを覚えている。
小さな娘と手をつないだとき、母の私にも注がれた何ともいえない安心感。これを、本音は心細いであろう母にも、また感じさせてあげたいと思うのだが、今の微妙な関係やわだかまりが阻んでいる。
ところが昨年の夏、家族で出かけたとき、なんと母と娘が手をつないで目の前を歩いている。私はすかさず娘に、「ねぇ、どっちが先に手をつないだの? おばあちゃん?」と小声で聞くと、「なんとなく。自然に」。若干の嫉妬を感じた。
きっと母は孫の手を引いているつもりだろう。それでもいい。温もりは伝わるから。
※女性セブン2018年3月22日号