国内

認知症要介護の母、絶対に私と手をつないでくれないが…

認知症の母は手を繋ぐのだけは拒否(写真/アフロ)

 認知症の母(83才)を介護する54才の娘・N記者。母親が要介護となり、親子の関係は微妙に変化したという。簡単に言えば、面倒を見る・見られる関係が入れかわったといえるだろう。それでも2人の仲は良好。しかし、そんな母が決して許さないのは娘と手をつなぐことだった…。

 * * *
「Nちゃんがこの家を探してくれて本当に感謝しているの。食事は大勢で楽しいし、ヘルパーさんはすぐ来てくれるし、全然寂しくない」

 4年前、私の家の近くのサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)転居以来、母は私に会うたび、電話のたびに、判で押したように必ず言う。よかった…と素直に微笑み返せれば美しいのだが、額面通りに受け取れない私がいる。なぜなら、今の母とは何か妙な距離を感じるのだ。

 父の急死でひとり暮らしになり、転居するまでの約1年半、母の壊れ具合はすさまじかった。特に怖かったのは突然、激昂して私がお金を盗ったとなじる“物盗られ妄想”だ。

 認知症の本には、いちばん信頼する身内を泥棒扱いするとあるが、「私を疑う気持ちだけは本物なのでは…」という思いが募り、母に身の潔白を認めさせたい気持ちが抑えられない。そして恐ろしいののしり合いを演じたのだ。

 それが転居して食事や生活リズムが整ったとたんに母の妄想はピタリとやんだ。ケアマネさんによると認知症の進行で金銭への執着がなくなると、妄想も収まることがあるらしい。穏やかな母に戻ったことはうれしかったが、私の心にはわだかまりが残った。

 父の生前は母もボケ気味ながらも自立した大人で、私とも対等なつきあいができた。それが、私なしでは生きられない立場になったことも“妙な距離”の一因かもしれない。

 母もその認識だけはあるらしく、昔は口にしなかった感謝の言葉を、連発するようになったのだ。

 それでいて、私の手には断固として触れない。電車やタクシーの座席から立つときなど、私は自然に手を差し伸べるのだが、心情的な意図はなく、その方が安定して歩き出せるからだ。その手を、母はあからさまに拒否する。時にはわざわざ手を引っ込めたりもする。

「別に意地張るところじゃないじゃん」と心でつぶやくと、

「手を引かれるほど落ちぶれちゃいませんよ!」と、プイッと横をむく母の、無言の訴えが勝手に聞こえてくる。

◆手をつなぐのは照れる。でも、ホッと心が和む

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン