もちろん、門脇さんの演技が光り輝いていたのは、相手役・旺太郎を演じた山崎さんの演技との相互関係の結果でもあります。

「山崎賢人」のイメージといえばイケメン、ラブコメ。今回もチャラいホスト役にとどまるかと思いきや、いやいや。半端ないヤサグレ感と共に、生きる悲しさ、哀愁を潜ませた陰影ある人物を見事に演じ切って、新たな地平を拓きました。

 宰子も旺太郎も満たされていない、何かが足りない人物。お互いがお互いの欠如を埋め合った。けれども最終話、宰子と旺太郎は結ばれることなく、また別々の道へ。まさしく「切なさ」の余韻を残したのです。

「欠如の美」「不足の美」というのは、考えてみれば日本人が好きな王道テーマ。文学の歴史の中でも繰り返し表現されてきました。

 たとえば満月より欠けた月に美しさを見る、という日本的感性は「月も雲間のなきは嫌にて候」 (こうこうと輝く満月よりも、雲間に見え隠れする月が美しい)という言葉で、わび茶を始めた村田珠光が表現しています。

 あるいは、教科書に載っている『徒然草』のフレーズには「咲きぬべきほどの梢(こずゑ )、散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ」とあります。今にも咲きそうで咲いていない枝、花が散りしおれた花びらが落ちた庭こそが美しい、と吉田兼好。そう、花そのものではなく、花が欠けている風景の方を味わっているわけです。

『トドメの接吻』は、一見今風の謎解きミステリーに見えて、根底には脈脈と続く日本的感性の王道テーマ、「欠如の中の美」が流れていたのかもしれません。

 人物像にも、ストーリーにも、達成ではなく欠けたものゆえの魅力がありました。それが「切なさ」につながっていたのだ、と気付かされました。新鮮な視聴体験でした。

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