そんな時、ミツヒロと名乗るキツネ顔の男が割って入って来た。老舗食品メーカーの御曹司らしい。
「そんなにがっついたら嫌われますよ(笑)。ねぇ、名前はなんていうのかな?」
カンタは私に話すのをピタッとやめて、違う女性を探し始めた。
「ありがとうございます、困ってたので。リサコです」
そう名乗った私に、「ああいうのって、困るよね」「女性がどんなことを言ったら嫌がるのか、わかってないんじゃないかな」という。さんざんカンタをディスったあとで、「君が可愛いからだよね」と私を口説き始めた。
あるあるパターンである。他の男の口説き方を「イタイよね」と批判する男に限って、同じようにひどい口説き方をする。
見た目は悪くなかった。180センチはある長身に、ピシッとしたスーツ、フェラガモと丸わかりのネクタイ。肌も綺麗だった。だが彼は、話し始めて3分くらいで、
「ハワイに別荘あるから今度行かない? ハワイだよ、ハワイ。アラモアナショッピングセンターで好きなだけ買い物させてあげる」
と来た。突然ハワイ? びっくりしていると、おもむろにiPadを開いて、最近購入したというハワイの別荘の画像をたくさん見せてくれた。何億円した、とか言っていたが、忘れた。
「奥さんと子供が今月行ってるから、僕たちは来月行かない?」
驚きの提案である。妻子が利用する別荘に誘う神経。「え、ハワイはちょっと…」と私。
「ああ、日差し? 日焼け怖いよね、まだ若いからエステすれば大丈夫。エステもさせてあげる。せっかく綺麗な肌だもん。キープしようね。ハワイならロミロミもいいね。カップルコースがあるホテルがあってさ~」
「いや、そういうことではなくて…奥さんが出入りする場所に行くのは怖いです。そもそも出会ってすぐ海外も無理です」
しかし、ミツヒロは続けた。
「飛行機代も僕が出すし。エコノミーじゃないよ? ビジネス。リサコちゃんはパスポートだけ持っていけばいいよ。もうさ、デートプランは完璧だよ。リサコちゃんを見てピンときたんだ。大学の時の彼女にそっくりで。それでさ、そのまま手を繋いで海辺を散歩しよう。それで夕陽をバックにヤシの木の下でキスしようよ」
なんとクサい口説き文句だろうか。ヤシの木の下でキス?