就任10年目の重澤は松商OBではなく、今治西高校の卒業生である。松商の歴史の中で、初めての外様監督だ。それゆえ50人以上のプロ野球選手を輩出している松商OBからの、重澤に対する風当たりは強い。
「責任を感じています。『これは松商の野球じゃない』『監督を辞めろ』と言われることもあります。それも仕方ありません。勝てていませんので。もしOB会が後任を見つけてくるようなことがあれば、私は意向に沿いますし、すべては校長に一任しています」
松商の玄関前には1986年夏の甲子園で準優勝した際の記念碑が立てられており、メンバーの名前と共に、作詞家の阿久悠がスポーツ紙に寄稿した「甲子園の詩86」が刻印されていた。冒頭の一節を引用する。
《怪童もいなければ 天才もいない 大器もいなければ 逸材もいない 目を見はる幸運児も 特別のツキ男もいない 一人一人が一人一人の役を果たしながら 巨大な歯車を回す》
松商のナインは毎日、阿久悠の詩を暗唱し、練習に臨む。重澤は言う。
「この詩にある野球こそ、松商の野球だと思うんです。今年の夏は甲子園が100回大会を迎えます。松商に出てもらいたいと思ってくださる方がたくさんいる。是非とも出場したい」
※週刊ポスト2018年4月6日号