医師が看取らずに病院以外の場所で死亡するなど、死因が明確でない場合、その遺体は「異状死」とされ、警察が検死する。それでも死因が特定されない場合や公衆衛生の必要に応じて、遺族の承諾を得て解剖に回されることがある。これが「承諾解剖」だ。
「死体解剖保存法によって規定された制度で、同法7条には『死体の解剖をしようとする者は、その遺族の承諾を受けなければならない』とありますが、遺体を取り扱うのが警察のため、医師ではなく、警察が遺族に解剖の承諾を得ているケースが多い」(神奈川県内の葬儀社関係者)
昨年は全国で16万5837体(交通事故を除く)の異状死が報告されている。そのうち承諾解剖は9582体だった。東京23区や名古屋、大阪、神戸では、戦後に作られた死因調査を専門とする監察医制度がある。監察医制度の下では、異状死を対象に、公費で承諾解剖が行なわれている。一方、監察医制度のない道府県では、承諾解剖はほぼ行なわれていない(2017年は32道県で「0」)。
そんななか、監察医制度がないにもかかわらず神奈川県の承諾解剖数は4014件と全国の4割以上を占め、その全てが遺族負担だという。しかも驚くことに、そのうち3800体を超える解剖を1人の解剖医が行なっていた。365日稼働したとしても、この解剖医は1日平均10体以上の解剖を行なっている計算になる。
その場所が冒頭の遺体が運ばれた施設であるが、建物には「○○研究所」という、病院らしからぬ名前が記されていた。法医学者で日本医科大学教授の大野曜吉氏が語る。
「承諾解剖では、まず遺体の外表を調べた後、メスで首の下から下腹部まで開き、臓器を取り出して重さを測ったり、組織を採取・検査したりして、死因を探っていく。その後に死体検案書を書いたり、解剖記録などを残すことになります。1人ができるのは1日1遺体か、多くても2遺体。年間300体が限界でしょう」