この問題は行政側も認識しているようだ。神奈川県はこう話す。

「“隣の東京(23区)では、(監察医制度があるために)解剖は公費負担なのに、神奈川ではなぜ遺族負担なのか”という疑問の声が届いているのは事実です。その点については、これから対策を考える必要があると考えています」(県庁医療課)

 冒頭の遺族は神奈川県警から「解剖することになる」と告げられた。多くの葬儀社関係者も「研究所に遺体を運ぶように指示しているのは県警」と口を揃える。前述したように「研究所」には鑑識のジャンパーを着た者も出入りしている。

 そこで神奈川県警に、承諾解剖の委託先や費用についての質問書を送った。しかし県警は、「承諾解剖は御遺族の希望または公衆衛生を目的に、御遺族の承諾のもと、医師の判断で実施されている。警察としては答える立場にない」(広報県民課)と、“無関係”だと主張するだけだった。

◆「8万8000円はむしろ安い」

 では、当の解剖医はどう答えるのか。横浜市内にある自宅を訪ねた。インターフォンを鳴らすと、本人が玄関から姿を現わしたが、何を聞いても「取材は受けない」という。だが、後日、改めて質問書を送ると、電話での取材に応じた。

──1人で行なうには解剖数があまりに多いとの指摘がある。

「そんなことはない。毎日朝7時から夕方まで、それなりのスタッフとともに効率よくこなせば、1日10体ぐらいならできる。私は開業以来、趣味のゴルフをやめ、365日盆暮れもなく働いている。自分を犠牲にして死因究明にあたってきた」

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