徹底的にキャラクター作りをしている気配は随所に感じられます。例えば、冷凍焼きおにぎりを電子レンジに入れるシーン。電子レンジの扉を開けると、そこに置き忘れた大切なネーム原稿が発見される。このシーン、大きな見所の一つです。クビになっていた鈴愛はそれで救われ漫画家への道を一歩踏み出すのですから。おにぎりの載った皿を持つ秋風の表情、指先の形、そして間合いの取り方。細部の細部まで詰め切っている。このシーンの意味が際立つための演技的計算でしょう。
しかも、秋風の面白いのはどこか純でカワイらしくて、けなげなところ。5年前に手術したガンが再発したかもしれない、と泣く姿は実にいじらしい。秋風羽織という役柄に56歳の豊川さんの魅力が、はちきれんばかりに詰まっているのです。
豊川悦司さんといえば、かつては大人の色香漂う二枚目役で鳴らした人。90年代には常盤貴子と共演した『愛していると言ってくれ』で耳が不自由な青年画家のピュアな恋愛模様を描き出して大ブレイク。誰もが知っている有名役者の割に、簡単にはバラエティなどに出ず、テレビでのトークも少なく等身大の姿や実生活についても神秘的なベールに包まれている。ということはつまり、「演技ですべてを判断してください」というメッセージでしょう。
年をとっておっさんになれば、その年齢だからこそできる魅力的な演技を見せつける。立ち止まらず、年を経るごとに変化していく。そんな輝かしきおっさん役者のけなげさ、カワイらしさにラブを感じます。