国内

『宿命の戦記』著者 左派勢力のハンセン病政治利用に怒り

作家の高山文彦氏

 笹川陽平・日本財団会長のハンセン病制圧の旅に7年にわたって同行取材した『宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録』。著者・高山文彦氏と原武史・放送大学教授が「ハンセン病と皇室」について語り合う対談「人類史の暗黒に光を当てる──高山文彦『宿命の戦記』をめぐって」の最終回は、ハンセン病療養所・多磨全生園がある西武沿線に左派勢力が侵食していった風景の話から始まった。

 * * *
高山:僕が驚いたのはね、患者の家族側の集団訴訟で1人500万円勝ったら、弁護士の報酬は20%だそうです。原告団は600人近くいて、これは左翼勢力による明らかなハンセン病の政治利用でしょう?

原:左翼に乗っ取られるといえば、多磨全生園の近くにあった結核療養所もそうですよ。全生園は東村山市、結核療養所は清瀬市にあります。どちらも僕が以前住んでいて、そこでの体験を本に書いた滝山団地がある東久留米市の隣なんです。同じ西武沿線の。

高山:『滝山コミューン一九七四』ですね。

原:ええ。僕は小1から中1まで滝山団地で育って、団地の小学校が左翼勢力に乗っ取られていく話を書いたんですが、全生園に最も患者が多かった時期も、まさに団地みたいな集合住宅がズラっと並んでいた。その中に一種のコミューンができ、自治会が力をもつ話は、僕自身の実体験と重なります。つまりもともと雑木林があるだけの隔離された世界に同質的な団地ができ、そこに1つのコミューンができていく。

高山:つまりハンセン病患者も、皇室も、団地の住民も、決して「ひと色」ではなかった。それが同質化され、記号化されていく動きを、北條民雄は20代そこそこの若さで見抜いていて、凄いんです、彼の日記を読んでみるだけでも。

 原さんは『滝山コミューン一九七四』の巻頭にカール・シュミットの『現代議会主義の精神史的地位』から、次のような言葉を引用されています。

〈あらゆる現実の民主主義は、平等のものが平等に取扱われるというだけではなく、その避くべからざる帰結として、平等でないものは平等には取扱われないということに立脚している。すなわち、民主主義の本質をなすものは、第一に、同質性ということであり、第二に──必要な場合には──異質的なものの排除ないし絶滅ということである〉と。

原:北條民雄は戦前、私が書いた滝山団地は戦後の話で、時代は違いますけどね。

 今の西武新宿線と池袋線に挟まれた地域に、明治末期から昭和初期にかけてハンセン病の施設や結核の療養所ができ、戦後の1960年代に、それよりやや東寄りに滝山団地ができる。結核療養所が共産化するのは占領期、滝山コミューンは1970年代ですが、同じことが同じ地域で繰り返されたことに、僕は何か偶然じゃないものを感じるんですね。

 実はそれが最初の話とも繋がるんですが、熊本という土地に根ざした渡辺京二さんの活動や著作に触発された僕は、ある時、自分があの地域で育ったことが何を意味するのかと考えた。すると団地とよく似た空間が明治の末からできていて、それが多磨全生園や結核療養所なんです。住宅地として売ろうにもなかなか売れなかった西武鉄道の沿線に、日本住宅公団が団地をつくり、当時は団地族への憧れが強かったこともあって、西武はイメージを変えていく。ところが駅前はあまりまとまった土地が確保できないから、駅からかなり離れた場所に団地ができる。滝山団地が典型ですが、そこはもうバスの終点なんですよ。住民しか乗らないような。そんな外界から隔絶された土地に、共産党の支部がつくられ、団地自治会ができるわけです。

 まさに全生園も駅から結構離れていて、北條民雄が東村山まで西武線の電車で行って、駅から20分ほど雑木林のなかを歩いて行くシーンが『いのちの初夜』の冒頭にあるでしょう、タクシーに乗車拒否されて。あのシーンが、僕にはものすごく印象的だったんですよ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン