そして、目下、自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転車、シェアリング、電気自動車)というトレンドの中で、各メーカーがその対応やEVシフトを急いでいるが、その中でマツダはスタンスが異なる。
「我々は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンが強みだと思っていますし、その方向感を緩めることはない。適材適所で、EVはトヨタさんやデンソーさんらと一緒に開発していくということです」(小飼氏)
マツダが掲げる“人馬一体”のクルマ作りに共鳴、共感する消費者は、どんなにCASEが進展しようとも一定層は必ずおり、クルマをコモディティや単なる移動手段とは考えていない。マツダはそういう市場を主戦場とするという宣言でもある。マツダは強みであるガソリンやディーゼルのエンジンに関しては、SKYACTIVという動力性能、燃費性能を両立した技術を深掘り、進化させてきた。
また、デザイン面に関しても2012年から「魂動デザイン」を統一テーマとして全車種に横展開している。日本ではこれまで、売れたモデルはキープコンセプト、売れなければドラスティックに変え、車種ごとにクルマのフロントマスクも大きく違うのが通例だったが、マツダでは統一感がある。
最近はさすがに「みんな同じ顔に見えて飽きた」というユーザーの声も聞かれるが、メルセデスベンツやBMWのクルマの顔はみんな統一感があり、すぐにそれとわかる。マツダも、ブランド力をそこまで引き上げるためにも統一デザインで勝負すると決めたのだろう。
両輪であるSKYACTIVのエンジンと魂動デザインは、来年の2月か3月あたりに「第2幕」が開くことになる。
さらに燃費性能を高めたSKYACTIV-Xと呼ぶ新エンジンに加え、昨秋の東京モーターショーでお目見えした、ポスト魂動デザインをイメージした「VISION COUPE」をベースにした新たな統一テーマのデザイン。そして、その新エンジンを積み、新デザインをまとったクルマが、直列6気筒のFR(フロントエンジン、リアドライブ)レイアウトで、次期「アテンザ」として登場してくるのではないかという声がもっぱらだ。
メルセデスベンツやBMWの上級車は直列6気筒のFR車が多く、そこにマツダが真っ向勝負を挑むクルマの骨格ベースがセダンの「アテンザ」であり、それをSUVなどにも横展開するという解説だ。
かつては日常風景だったセダンは、特に国産車では商業的に存在感が希薄になってしまった。若年層の中には「国産セダンはおっさんくさい」と映る人もいるようだが、前述の脇家氏が語ったように輸入車、たとえばメルセデスベンツやBMWなどのセダンはいまも存在感は高い。要は、「アテンザ」をそうした海外勢の強豪と渡り合えるプレミアムセダンにしたいという強い思いである。
言い換えれば、自社のセダンを“和製ベンツ”“和製BMW”の域にもっていくために、敢えて不人気ジャンルのセダンにこだわるのだろう。かつて、トヨタも直列6気筒FRレイアウトでスポーツセダンの「アルテッツァ」を投入して和製BMWを狙ったものの、結果的には失敗に終わっている。トヨタが突破できなかった壁を再度、マツダが挑戦するわけだ。2年後の2020年、マツダは創業100周年という節目を迎える。その時には、マツダが世界の列強メーカーとガチンコ勝負に持ち込めるか否かの答えが出ているはずだ。
●文/河野圭祐(ジャーナリスト)