「当然、取引に応じた人間には、組が制裁を加える可能性が出てくる。米国ではいわゆる“証人保護プログラム”があり手厚い保護が受けられるが、日本ではそうした制度が併設されていない。過去に、山口組傘下の組長が銃刀法で指名手配された際に、親分の潜伏先を自供した組員がいましたが、出所後に殺されている。
また、司法取引では弁護士が同席して公証人にならなければいけないが、暴力団相手に恨まれる可能性のある公証人を引き受ける弁護士はなかなかいない。弁護費用は本人ではなく組が出していることが多いためです」
マフィアの取り締まりが激化した1980年代のイタリアで、警察官や判事らが殺害される事件が多発する中、マフィアの大物たちを逮捕できたのは、「ペンティート」と呼ばれる改悛者、つまり司法取引で仲間を売った人間たちの証言があったからだ。マフィアの制裁に対抗するため、司法取引では減刑はもちろん、改悛者の家族の保護まで受けられたという。日本版・司法取引は、今のところそれとは大きく違っている。
◆応じなければ罪が重くなる?
暴力団と対峙する警察からは今回与えられた権限について、「検察が認めれば警察官が関与できるとはいっても、我々にとってはまだまだ十手以下の武器」(警察庁関係者)と、さらなる司法取引の拡大を望んでいる。組織犯罪が対象とはいえ、被害者感情を考慮し殺人罪などは除外されている以上、当面、暴力団の心臓を射貫く槍にはなり得ない。
ただ、ヤクザ側からはこんな声も聞こえてくる。