119kmの球を繰り出す
島野さんが野球を始めたのは小学2年生の時。赤ちゃんの頃から、ふたりの兄の練習に連れられていた彼女が、自分もやりたいと思うのは自然の流れだった。
「野球って、チーム戦なんですけど、個人が1試合の中で活躍できる場がたくさんある。自分が一番しっくりきたポジションが、ピッチャーでした」
女子の発育が早い小学生年代では、男子に混じって女子がレギュラーとして試合に出場することは珍しくない。しかし、女子に体格で追いつき、筋力で大きく上回る中学生年代に入ると、その数はぐっと少なくなる。まして、学校の部活動である軟式野球ではなく、硬式野球となればなおさらだろう。実際、大淀ボーイズで女子選手は彼女だけだ。
「男子の中に入って、3年間やれる自信はなくて、正直、もっと早くに落ちこぼれると思っていましたし、実際に逃げ出したいと思ったこともある」
一時は女子野球のチームにも籍を置いた。しかし、女子だけの野球は彼女のレベルには物足りなかった。
「一日の練習量が女子と男子とではまるで違う。一日で男子との差が開いてしまう気がした。自分がここにおっていいのかなと思って、辞めました。本当は土曜日とかに女の子の友だちとカラオケに行ったりしたいんですけど、明日のピッチングへの影響を考えると、控えちゃいますね」
男子選手を手玉にとる喜びはあるか──。そう問うと、島野さんはこの日一番の笑顔を見せた。
「マウンドではあんまり、男子とか女子とか、考えていないです。普通に目の前のバッターを抑えたいということだけですね」