国内

がん闘病の新常識「サバイバー生存率」 職場復帰など選択肢増える

伊藤ゆりさんらの論文(Cancer Science 2014)から

 従来のがん治療における患者の生存率の主な目安は、「5年生存率」だった。これは、がんと診断された患者が、診断から5年後にどれだけ生存しているかの割合を示したもの。

 しかし、それに代わる新たな統計データ「サバイバー生存率」を活用する動きが始まっている。「サバイバー生存率」とは、がんと診断されてからの経過年数ごとに、その時点から5年間の生存率を示すもの。がんと診断されてから年月の経過とともに、その後の生存確率が高まっていくことに着目したデータだ。

 サバイバー生存率を研究する、日本がん登録協議会の専門員で大阪医科大学准教授の伊藤ゆりさんは、サバイバー生存率に手応えを感じている。

「これまでの5年生存率は診断された時点での数字が変化せず、患者さんは診断からずっと同じ生存率を気にして生きることを強いられました。5年もの間、“自分は亡くなる可能性がこれくらいある”と考えながら生きるのは患者さんにとってつらいことです。

 しかしサバイバー生存率を用いれば、多くのがんで診断から年数が経過するほど生存率が高くなります。これは、がんと診断され療養生活を送る患者さんにとって大きな希望になります」(伊藤さん)

 この生存率が医療現場に普及し、医師が患者に対し、「何年経過したから生存率はこれだけまで上がりました。来年には、さらにここまで上がりますよ」と科学的根拠に基づいて伝えられるようになれば、患者ががんと闘ううえで大きなモチベーションとなるはずだ。「将来の見通し」を患者に与えられるメリットも大きい。

「療養を終えたがん患者さんにとって大切なことは、いつ治りそうだとか、いつ職場に復帰できそうかといった将来の見通しです。サバイバー生存率ならば、5年待たなくても1年ごとの方向性が把握でき、職場復帰や治療の選択肢など、患者さんが積極的に自分の人生を考えられるようになる。企業も科学的なデータで生存率が一般の人と同レベルだとわかれば安心して雇えるため、がん患者さんの就労支援にもなります」(伊藤さん)

 注意すべきは、がんの生じる部位によってサバイバー生存率には差があることだ。早期発見・治療が難しい膵臓がんの場合、女性の5年生存率はわずか6%だが、1年後のサバイバー生存率は21%、3年後は65%に達する。最初の苦しい時期を乗り切れば、生存率が著しく向上するのだ。

「一方で乳がんは予後がよく5年生存率が88%と高いが、再発の影響でその後も一定の割合の死亡リスクのまま推移します。肝臓がんも再発が多く死亡率が高いため、5年生存率24%に対して診断から5年後のサバイバー生存率は38%にとどまります」(伊藤さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
オンラインカジノを利用していたことが判明した山本賢太アナウンサー(ホームページより)
フジテレビ・山本賢太アナのオンラインカジノ問題で懸念される“局内汚染”「中居氏の問題もあるなかで弱り目に祟り目のダメージになる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン