宮沢りえの『Santa Fe』を筆頭に、1990年代前半に世間を大いに騒がせたのがヘアヌードブーム。女優の島田陽子も1992年に『KirRoyal』を発表し、55万部を売り上げた。風俗史研究家の井上章一氏が、同作について振り返る。
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1990年代初頭、私は自分に与えられた個人研究費の枠のなかで、アイドルや女優による写真集を購入し、研究を続けていましたが、島田陽子さんの『KirRoyal』が出版された1992年の辺りで、購入し続けるのを断念しています。あまりの発行点数の多さに、とても追い切れなくなったからです。勢いに拍車をかけたのが、一連のヘアヌード写真集であることは間違いありません。
私はこの「ヘア」という言葉そのものに強い違和感を覚えています。「ヘア」を指すものは頭髪です。陰毛を指す言葉は「pubic」ですから。
いずれにせよ、陰毛一本をめぐって、表現する側と取り締まる側との間で繰り広げられていた激しい攻防に、ひとつの結論が下されたのが、樋口可南子さんの写真集『water fruit』でした。
この作品で陰毛の写った写真が「芸術である」と認められたのです。当時、「これこそが芸術である」と思って写真集を購入した人が何%いたか疑問符がつくところではありますが(笑い)、芸術という錦の御旗を掲げた陰毛の写った写真集が、堤防が決壊したように次々と出版されていきました。