「昔は練習中に1滴の水も飲ませなかった。よくもあんな無茶をしたと、背筋が寒くなります。近大附属のコーチ時代、大阪の頂点にいた浪商さんは猛練習で知られ、水なんて飲ませない。でも、塩は舐めさせていた。浪商さんに勝つにはもっとキツい練習をしなければならないと思って、ウチは塩もダメにした。選手には迷惑な話です。
そんな間違った指導が当たり前だった時代を考えれば、大きく環境は変わった。利根商の練習を手伝いに来てくれた近大附属の卒業生からは、『僕らにも水を飲ませてくれていたら、大阪で毎回優勝できた』と文句を言われましたよ(苦笑)。
昔ながらの指導法には間違いもたくさんありましたが、変わらないでほしいのは『高校野球は教育の一環である』ということです。
格好つけているように聞こえるかもしれませんが、子供たちには常々『社会人として信頼され、尊敬されることが大事。野球バカになってはいけない』と言ってきました。近大附属の監督時代には、補欠の選手を見下すような態度をとった1年生エースをベンチから外したこともあります。その夏の予選は、決勝で負けました。彼を使えば甲子園に行けたかもしれないけれど、チームが成長するためには外すしかなかった。
彼は腐らず3年間野球を続けました。卒業してから何年か経って子供が生まれたと、彼が僕を訪ねてきてくれた時は本当に嬉しかったですね」