仕方ないことかもしれませんが、才能ある中学生を集めるチーム作りだと、選手のやりたいようにやらせる野球になりやすい。とにかく“フルスイングして打ち勝つ”というチームが増えた。バントや盗塁、エンドランとか、局面ごとに選手たちが考えながらやるのが教育の一環であり、負けたら終わりの高校野球の在り方だと思うんですけどね」
人生の4分の3を高校野球に捧げた豊田は現在、自宅のある奈良県で孫たちと過ごす。
「監督時代は四六時中野球のことばかり考えていました。監督として夏の甲子園には出られなかったけど、82歳まで好きなことをやれて、本当に幸せ者でした」
傘寿を超えても愛車のハンドルを握る。後部座席には、使い古されたノックバットが置かれていた。
「これが近くにないと、どうも落ち着かなくてね」
ノックを通じた教育に心血を注いできた“根っからの高校野球人”は、来年から「元監督」として、球児と指導者たちにエールを送り続ける。
●取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2018年8月31日号