と、再び場面は大河ドラマ推進委員会へ。加藤に忠敬の大河は書けず、書けたのは景保のドラマだった。その意味を深く理解した主任は提出書類にこう書く。「伊能忠敬なる人物、ドラマにするには大きすぎた」。
暗転し、パラグライダーで矢野健夫が空撮した海岸映像がスクリーンに映し出される。BGMは高中正義の『黒船』だ。やがて画面上に正確な日本地図が出現、続いてその横から伊能図が現われて、両者がピタリと重なる。ここが『大河への道』のクライマックスと言っていい。志の輔は2007年に伊能忠敬記念館でこの「2つの地図が重なる」のを見て衝撃を受け忠敬の噺を作ろうと思い立ったものの、なかなか完成せず思い悩んでいたとき、テレビで矢野の空撮映像を観て「これだ!」と閃き『大河への道』完成に至ったのだという。
忠敬が亡くなったのは1818年。没後200年の今年、志の輔はこの作品を全国で演じている。なお推進委員会の目標は、以前は「2018年の大河」だったが、今は「地図完成から200年(2021年)の大河」だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年8月31日号