国際情報

風刺画で物議を醸した豪紙と「ポリコレ棒」について考察

ヘラルド・サン紙には抗議が殺到した(写真:AFP/AFLO)

 快挙の裏で起こった論争。このご時世、「炎上」を避けるに越したことはないかもしれないが、大人として覚悟と気概を見せるべき時もあるだろう。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 にわかに「大坂なおみブーム」が巻き起こっています。先日ニューヨークで行なわれたテニスの全米オープン女子シングルス決勝で、大坂なおみ(日清食品)選手が絶対的女王のセリーナ・ウィリアムズ選手を破って、見事に優勝しました。

 この試合で話題になったのが、セリーナ選手の暴れっぷり。ラケットをコートに叩きつけて壊したり、審判に執拗に抗議して1ゲームを剥奪されたりなど、劣勢になったイラ立ちを思いっ切り炸裂させました。大半がセリーナ選手を応援していた観客席からは、審判への激しいブーイングが巻き起こります。

 試合後は観客に向かってブーイングをやめるように呼びかけるなど、さすがに女王の貫録を見せたセリーナ選手でしたが、試合中の振る舞いについては、たしかに批判を受けても仕方がなかったと言えるでしょう。10日にオーストラリアの大衆紙「ヘラルド・サン」は、風刺画家のマーク・ナイト氏がセリーナ選手を描いた風刺画を掲載。彼女らしき人物が派手に地団太を踏み、足元には壊れたラケットとおしゃぶりが転がっていて、後方では審判が対戦相手に「彼女に勝たせてやってくれないか」と話しています。

 彼女の激しい抗議から感じられた子どもっぽさ、そして審判のウンザリした本音を表現している、なかなかよくできた風刺画と言えるでしょう。ところが、この風刺画に対して、世界中から「人種差別だ!」「男女差別だ!」という批判が寄せられます。「ハリー・ポッター」シリーズの作者J・K・ローリング氏も「よくも世界でもっとも偉大な女子選手を人種差別と性差別で表現してくれた」とツイートしました。

 風刺画はセリーナ選手の振る舞いを揶揄してはいますが、どこが人種差別でどこが男女差別なのか、さっぱりわかりません。わからないと言うと、差別を反射的に糾弾することが正しいと信じてやまないシンプルなタイプの人たちは、「お前の目は節穴だけど、賢い自分たちはすぐにピンと来た」みたいな言い方をなさいます。

 いや、どういう部分を問題視して「差別だ」とおっしゃっているのか、わかっていないわけではありません。その上で、そこが差別だと騒ぐ意味がわからない、そこが差別だと騒いで世の中がどうよくなるのかがわからない、という話をしています。しかし、そういう人たちは、自分のほうが表面しか見ていないかもしれないとは夢にも思いません。

 批判を受けたヘラルド・サン紙の態度は、アッパレで痛快でした。編集長のデーモン・ジョンストン氏は、風刺画は人種差別でも性差別でもなく「テニス界の伝説のみっともない真似を、正しくあざ笑った……全員がマークを全面的にサポートする」とツイートします。そして翌11日の紙面の一面トップに、問題の風刺画を含めて、いかにも物議を醸しそうなイラストをズラリと並べました。じつに明確な挑発です。

 タイトルは「PCワールドへようこそ」。下には「勝手に検閲担当を自認する連中の言うとおりにしたら、ポリティカリー・コレクト(PC)な新しい社会はとても退屈なものになる」と書いています。「ポリティカリー・コレクト(コレクトネス)」とは、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、差別や偏見が含まれていないこと。

 もちろん差別や偏見をなくすことが大切なのは、言うまでもない大前提です。しかし日本でも、重箱の隅をつついた上で激しく曲解し、「男女差別だ! ケシカラン!」とかみつくことが大好きな人たちは少なくありません。そういうふうに、自己満足のために言いがかりをつける行為を指す「ポリコレ棒で叩く」という言葉もあります。

関連キーワード

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト