重篤な状況でも、ご自分のことはお気になさらずに美しい月に目を向ける普通の人とは違う、従容としたお姿でありました。
「長雨が続いているが、稲の方はどうか」
私ども侍医に、陛下は政治的なお話しは一切なさいませんでした。だから病床にありながら米の作柄を案じられたというそのご発言も報道で知りました。でも私には、病床でも常に自然に関心を向け、国民を心配しておられた陛下らしいお言葉だと感じるのです。
【PROFILE】伊東貞三●1929年、東京都生まれ。昭和天皇、香淳皇后の侍医を務めた。著書に『昭和天皇とその時代』(青山ライフ出版)、『昭和天皇 晩年の想い出』(医学出版社)などがある。
●取材・構成/山川徹(フリーライター)
※SAPIO2018年9・10月号