「あ、お客さんも犬が好きなんですか? 奇遇だな~」と、のんきな運転手さん。「うちのももちゃんはね…あら、どこへ行ったのかしら」と、案じた通りに混乱し始める母。
私はうろたえながら里子に出した事情を小声で説明した。すると母が追いかけるように、
「ももちゃん、かわいそうにもらわれて行ったのよ…」
すると、それまで黙って聞いていた運転手さんが、愛犬とのツーショット写真を見せてくれた。
「うちもね、里子をもらってきたんですよ。すごくいい子でね~! 前の飼い主さんに愛されてたんだなー。ももちゃんもきっと今頃、幸せにしていると思いますよ」
その言葉を聞いて母はとても穏やかな、そしてなぜか誇らしげな笑顔になって言った。
「あら~、そう?」
家族や近親者から慰められるより、赤の他人の率直な言葉が心に響き、心底、嬉しかったのだろう。案ずるより外出するが易し。時には素敵な一期一会が待っているのだ。
※女性セブン2018年10月4日号