突破口は意外な所にあった。「容疑者が犯行後、川のそばでタクシーを降りた」という情報を得た若手刑事が、その場所に行ってみたのだ。女がその川に凶器を投げ込んだのではないかと考えた若手刑事は、川を見下ろし、川床をじっと見つめた。
「川床にはっきり金づちの形が見えた。砂をかぶり埋まっていた金づちを発見した」
若手刑事の報告に、刑事らは急ぎ川へと向かった。だが川に着いた彼らは、困惑を隠せなかったという。
「影も形も見えなかったんでね」
いくら目をこらしてじっと見ても、誰もが川床にあるという金づちは見えなかったのだ。それでも若手刑事は、その形がはっきり見えたと主張した。
「半信半疑だったがね、そこまで言い切るんだ。捜査には着眼点とやる気、刑事特有の勘が必要だ。ともすれば綱渡りみたいな時もあるが、それによって捜査が変わることもあるからな。信じてやろうと思ってね」
すぐに川の捜索を始めた。
「本当にその場所から凶器が出てきたのには驚いたよ。金づち、のこぎり、鉈と次々に証拠品が出てきたんだ」
陽の光、川の流れ、川床の砂の反射…。金づちの形が見えたのは、それらが重なった一瞬の偶然によるものなのかもしれない。証拠品を探し出そうという若手刑事の執念と彼の目は、その一瞬を逃さなかったのだ。
証拠を突きつけられてもなお、女は殺人を否認した。交際していた他の男がガイシャを殺したと主張を変え、こうやって殺しているのを見たと具体的な犯行方法を供述、男に罪をなすりつけようとした。だが、供述したその具体的な方法こそが女の犯行を特定する鍵となる。ガイシャの部屋のあちこちに残っていた血痕と、話した殺害方法が合致したのだ。
「あとはその男が殺していないことを証明すれば、犯人はこの女以外いないことになる」
その後もなんとか他人に罪をなすりつけようと供述を二転三転させた女だが、最後には有罪判決が下ったという。しかし、未だ殺人は否認したままだ。