取材に訪れたこの日は中秋の名月。『お月見どろぼう』と呼ばれる伝統行事が行われる日だった。十五夜に飾られるお供え物を、五穀豊穣を祈願してこの日だけは子供たちに盗っていかせたという習わしがあるが、今では各家の軒先に菓子を置いて子供たちが受け取れるようにしている。
由紀さんとさやかちゃんが暮らす地域でも、古くから子供たちのお楽しみ行事として毎年恒例となっている。この日も、お菓子を用意して包む共同作業を親子で進めていた。由紀さんが記者に教えてくれる。
「私が子供の頃、夜になると『お月見くださーい!』って近所を回ってました」
「えっ? (行事は)バァバが小さい頃からあったのかな?」
「どうだろう? きっと、あったんじゃないかな」
「ね、1つ食べちゃっていいかな?」
「も~、ダメダメ! ちゃんと人数分そろえたんだから~」
ケラケラとさやかちゃんが笑う。少し唇をとんがらせて由紀さんもまた笑う。母娘に笑顔が絶えない。穏やかでゆったりとした、どこにでもある日常。かけがえのないこの時が、今日も明日も続く。
※女性セブン2018年11月1日号