◆研究開始──がんについて正しく知ってもらうってことがものすごく大事
治療を受けながらがん哲学カフェに通うようになった由紀さんは、さやかちゃんにも声をかけ、可能な範囲で親子で参加することにした。
そうすることによって、親ががんを患っている子供同士のつながりも生まれた。ともすれば、親の健康不安を子供がひとりで抱え込んで孤独になり、精神的に不安定になってしまうこともあるが、さやかちゃんの場合は今のところ、そのような様子は見られない。
「抗がん剤で髪の毛が抜けた時も、『見て見て、こんなに抜けた』って娘に見せると、『わー、すごい! 写真に撮っておこうか』と返してきたりして。娘のおかげで“いちばんつらいよ”と言われていた脱毛の副作用も笑いながら乗り切れました」と由紀さんは言う。
無理に明るく努めているわけでもない。自分に降りかかってきた初めての経験をその都度、楽しむ。
「それなりに自分で受け止めているんだな、と思いました」(由紀さん)
はからずも軌を一にして、文部科学省主導で、小中校生に対するがん教育の推進が行われるようになった。さやかちゃんの学校でも、保健体育の授業で「がんの種類についてどれだけ知っているか?」というテーマで児童らの話し合いの場が設けられた。
「私はママを通してがんについて知っていたけど、友達は知らない人が多かった。乳がんのことを“尿がん”と間違えて覚えていたりして。それで、もっとがんについて知ってもらおうと思って、がんについて調べることにしました」(さやかちゃん)
母のがんを応援し始めたさやかちゃんは、本格的にがんと向き合うことにした。ちょうど夏休み。取材の時間はたっぷりあった。医師、病院、がんカフェ等々を訪ね、取材し、写真を撮った。病理そのものから周囲のケアの姿勢に至るまで、視野を広げ、知識を深めた。30ページにも及ぶ自由研究の大作『がんについて』はこうして生まれた。
「いちばん最初に書き始めたのはマンガのページからだっけな(笑い)。がんの親を持つ子供たちに向けての体験型イベントが病院であったから参加して、放射線治療室や手術室を見せてもらったり、先生や看護師さんたちにも詳しく話を聞いたりしました。みんなからいろんな話を聞いているうちに、がんはちゃんと治療すれば怖い病気じゃないってことがわかりました。
ちゃんと調べてわかりやすくがんについてまとめたら、友達も知ってくれる。もちろん、先生や大人たちももっとがんについて知ってくれる。それが、社会的にもっと広がっていけば、がん患者さんへの接し方も変わってくると思うんです」
そう語るさやかちゃんの横で由紀さんが大きくうなずく。
「がんだと話した時、相手がリアクションに困っていることによく気づきます。がん=すぐに死んじゃう、というイメージが強いのかどうか、動揺したり困惑したり…どう接していいかわからないという現状があるからだとわかってはいるんですけど。でも、そういう態度をされると、やはり世の中にはまだまだ“がん”という病気を悪い印象でとらえる人が多いのかなって。早くがんじゃない人にも気軽にがんの話題ができるようになってほしいです」(由紀さん)