◆音信不通になった人もいる
がんは感染症ではないし、今や2人に1人は罹患する病だ。なのに、自分ががんだということを人に言えず、引け目をもって生きている人は少なくない、と由紀さんは言う。実際、がんだと伝えてから連絡が途絶えた友人も何人かいる。激励してくれていたのに、病状が変化したことで、ぷっつり音信不通になった人もいる。
「普通に接してくれればいいのにって思うんです。でも、それって自分ががんになってみて経験することで、私だってがんにならなかったら対応に戸惑うと思う。だからこそ、がんについて正しく知ってもらうってことが、ものすごく大事だと思うんです」
そんな由紀さんの話に、今度はさやかちゃんが「うんうん」とうなずいている。
「がんになってから、『お嬢さん、お手伝いするようになった?』と聞かれるんです。それが一時期、とってもプレッシャーに感じました。もちろん時々お手伝いもしてくれますが、率先して自らなんでもするほどまで劇的に変わったわけでもなくて。だから、うちの子はダメなのかなぁ、なんて思っちゃったこともありました」(由紀さん)
悪意はないものの、デリケートさに欠ける周囲の何げない言葉に煽られた由紀さんは、この時も通院先の緩和ケア医の下山理史さん(現・愛知県がんセンター中央病院・緩和ケア部長)に悩みを打ち明けた。
「そうしたら、娘さんが興味を持っていないものを無理に教える必要はないですよ、とアドバイスしてくれました。やりたければ自ずとやる時がくるだろうし、無理に何か教えることはしないことにしました」(由紀さん)
とはいえ、常に心のどこかでは、自分がいなくなった時のことを考えない日はない。
「だけど、娘にはその先、悲しくてつらい人生は送ってもらいたくない。悪いイメージを残したくないんです。そうそう、先日、娘と一緒に『リメンバー・ミー』っていう映画を見に行ったんです。あんなふうに、死んだあとも親はずっと子供の近くにいて見守っているんだよって…そう思ってくれたらいいな、と思います」
夏休みの自由研究を終えて、さやかちゃんにある変化があったという。由紀さんが笑顔で語る。
「実は、2学期の児童役員会に立候補して、学年代表になったんです。“人前に立つ、学校の代表になりたい!”って。そんなふうに思うことも、立候補することもなかった娘なので、自分の中で何かが変わった部分があるのかもしれません。もしそのきっかけが自由研究であれば、私もうれしい。自由研究を通してさまざまながんカフェに参加したことで、最近では『私もがんカフェを開きたい!』と言い出してますし」