◆温情や思いやりが消えた
なかでも気の毒なのは、規則どおりの措置をとる前に、相手のためを思って注意や助言をしたことが、相手から「圧力」と受け取られるようなケースだ。
サッカー選手の三浦知良さん(J2横浜FC)が、先日、新聞のコラムで次のように述べていた。
〈ブラジルでは暴力や体罰に頼る指導はない。ある意味、その必要性がない。なぜならダメなやつは切り捨てられるだけだから。ダメな人間を何とか引き上げ、叱ってでも矯正しようという教育的動機は薄い〉(10月12日付「日本経済新聞」より)
ドライなブラジルと違って、わが国では切り捨てる前に選手を救ってやろうとする。それがパワハラや圧力と受け取られる場合もあるということだ。
心配なことに、日本でも世の中がだんだんとそちらの方向に近づいているように見える。
会社では、以前だとペナルティを与える前に注意してくれたのに、いまはいきなりペナルティを受けるようになったという声を聞く。中学校の教師は、以前は生徒が少しでもよい高校に入れるよう厳しく指導していたが、最近はそこまで指導しないと語っていた。トラブルが起きるのを恐れ、運動部の責任者になることを渋る教員が増えているともいわれる。地域でも危険な遊びをしたり、他人に迷惑をかけたりする子を見かけても、注意する大人はいなくなった。