「あくまで主眼は昭和史にありました。外事畑で主に旧ソ連絡みの事案を扱う砂田の守備範囲で、まずは各時代を象徴する事件を選びました。それに加え、時代を貫く縦軸となる存在として置いたのが、角栄でした。
例えばロッキード事件の時、私は小学生で、当時はご多分に漏れず巨悪が駆逐されたとしか思わなかった。ところがいかに角栄がアメリカに嫌われていたかとか、背後関係を知れば知るほど、日本人はなぜあの時、彼をヒステリックなまでに叩いてしまったのかと思ってしまうんです。せめてその背景にどんな力学や思惑が働いていたか、砂田という架空の警察官の目を通じて再検証したかったんです」
着任早々、砂田が班長の〈馬越〉に命じられたのは、前年の三菱重工以来相次ぐ連続企業爆破事件の捜査。前夜も間組本社が爆破され、要は刑事部の応援に動員されたのだ。が、後に東アジア反日武装戦線の幹部逮捕で終息を見るこの事件でも、公安は早々に犯人を特定していたとの噂があり、現場は無駄働きさせられたと怒る砂田に、幹部候補〈阿久津〉は言う。
〈でもね、今の僕らには何もできない〉〈今は黙って力を蓄えるしかないんです〉
そして翌51年。発端は、ロッキード社の監査法人が米上院に誤配した段ボールだった。その中に日本政府高官に工作を行なったとする記述があり、世にいうロッキード事件が発覚したのだ。角栄逮捕を受け、馬越班にも密命が下った。来日中の元ロッキード社員〈ヘンリー・ワイズ〉を目的も明かさないまま追跡せよという、〈CIAの下請け仕事〉である。
先輩の〈逢沢〉共々トップ屋に扮し、砂田は内偵を始めた。事件に関して情報を握るワイズが石油メジャー・ガルフオイルからも追われている事実を掴み、彼の潜伏先で日本に留学中の娘〈アンナ〉と出会う。父親を案じる彼女と千疋屋本店のフルーツパーラーで落ち合い、話を聞くうち、砂田はこの聡明な美少女に好意を抱くが、その思いも結局は裏目に出るのだった。