「羽生選手を超えるつもりはまったくありません。むしろ、自分自身を超えたい。羽生選手との関係は、ただの顔見知り程度です」「(比較されることを)何とも思っていません。ぼくは試合前は自分のことだけを考えるタイプです」
羽生も同じだ。順位より自分との闘いにこだわる。
2010年のバンクーバー五輪で、羽生にとって憧れの存在だったロシアのエフゲニー・プルシェンコ(36才)は「採点方法を変えるべきではないか。オリンピックの優勝者が4回転をやらないなんて、ちょっとわからないです」と苦言を呈した。優勝した選手が3回転以下のジャンプのみに抑え、確実に演技して金メダルを獲得したことへの抗議だった。「新たな技や表現に挑戦しない限り前に進んでいかない」という強い信念があった。
時代は彼が言っていた通りになった。幼い頃からプルシェンコに憧れ続けてきた羽生は、その思いが誰よりも強い。
「今回羽生が披露し、世界初といわれた4回転からのトリプルアクセルも点数が倍になるわけではない。それでも初めてのことに挑戦しました。何度転んでもめげず、自分の後を追ってくれる、本当に認めたライバルが後輩から現れてほしい。そんな羽生の思いにこたえてくれたのがジュンファンなのかもしれません」(フィギュア関係者)
◆浅田真央VSキム・ヨナの再来か
今シーズン限りの復帰を表明した“絶対王者”高橋大輔(32才)に並んで、まだ幼かった羽生がはにかんでいたのは8年前。羽生はシニアデビューからわずか4年でその“絶対王者”を追い抜いた。もしかすると羽生もまた追われる立場になるかもしれない。2人の対決は、かつて浅田真央(28才)とキム・ヨナが繰り広げ、世界中が注目した“フィギュアスケート日韓戦”にも重なる。
フィンランド大会のフリーを滑り終え、最終スコアを待つ「キス&クライ」。羽生は得点が発表されると、プルシェンコの愛称を呼び、ロシア語で感謝を伝えた。
「スパシーバ(ありがとう)、ジェーニャさん」
「プルシェンコのようになりたい」と憧れ、金メダルを目指してここまできた羽生。その彼が今、同じように自分の後を追い、超えようとしていく後輩を頼もしく待っている。また新たな羽生の闘いが始まった。
※女性セブン2018年11月22日号