ライフ

牛タン塩にレモンをかけて食べたのは誰が最初だったか

牛タン塩にレモンは焼肉の定番に(写真:アフロ)

 今では屈指の人気メニューであってもその出自は定かでない、ということも珍しくはない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
 近年、居酒屋における「とりあえずビール」はハイボールやスパークリングワインなどにっじわじわとその座を奪われつつあるように見えるが、焼肉界においてのスターターのポジションは以前揺らぐことがない。「とりあえず」の王様と言えば、牛タンである。

 もっとも焼肉店における牛タンの歴史は決して古くない。焼肉店のメニューとして登場したのは1970年代のことだと言われる。発祥店と言われているのは2店。あの「叙々苑」と銀座にあった「清香園」(閉店)という焼肉店だ。

 叙々苑が1号店を六本木に出店したのは1976(昭和51)年のこと。それから間もなく、牛タンが叙々苑のメニューに加わることになる。その経緯は、創業者の回顧録によればこうだ。

〈六本木に1号店をオープンして間もないころ、食肉業者に「何か新しいメニューにできるものはないかな」と相談しました。そうしたら「マスター、タンをやりなよ」と〉(新井泰道著『焼肉革命』角川新書)

 こうして叙々苑ではタン塩がメニューに加えられた。そこに現在の定番であるレモンが加えられたのは、六本木のクラブホステスのアイデア……というより、わがままから生まれたという。

 ある日タン塩を食べていたクラブホステスから「マスター、たれはないの?」「このまま食べたらやけどするじゃないの!」とリクエストが。しかしタン塩用のタレの用意はない。そう伝えるとホステスが「じゃ、レモン持ってきて」「私はレモンが好きだから、レモンを絞ってたれ代わりにしてタン塩を食べる」「マスター、これおいしい。合うよ。これたれにしたら?」と提案から実食までを一気にこなした。

 試してみると、なるほどうまい。こうして「タン塩にはレモン」が生まれたのだという。これが”タン塩レモン叙々苑発祥説”である。

 実はタン塩+レモンの発祥にはもうひとつの説がある。1952年創業の清香園総本店説だ。同店は、石焼ビビンパを日本に持ち込んだ店としても知られたアイデア焼肉店。数年前に店を畳んでしまったが、1919年生まれのこの店のマダム、張貞子氏が焼肉における牛たんのメニュー化と、レモンとの組み合わせを提案したという。

「スウェーデンの空港で見たタンの薫製が出発点。表はザラザラ、裏はぐにゃぐにゃの分厚い皮がくせものだったが、冷凍してみたらうまくむけた。『それまで肉はタレをもみ込んで焼くものだったが、塩とレモンでさっぱり食べるようにしたら好評で、あっという間に広まった』という」(2005年7月23日付東京新聞)

 実は清香園は1960年代にスウェーデンで行われた東洋料理の品評会に参加したのをきっかけに1970年にはストックホルムにも出店。いわば日本に本拠を置く飲食店の海外展開の先駆けとも言える存在だ。なにしろ1970年と言えば、日本の外食元年と言われる年。日本にマクドナルドが上陸する前の年の話である。

関連記事

トピックス

宮家は5つになる(左から彬子さま、信子さま=時事通信フォト)
三笠宮家「彬子さまが当主」で発生する巨額税金問題 「皇族費が3050万円に増額」「住居費に13億円計上」…“独立しなければ発生しなかった費用”をどう考えるか
週刊ポスト
畠山愛理と鈴木誠也(本人のinstagram/時事通信)
《愛妻・畠山愛理がピッタリと隣に》鈴木誠也がファミリーで訪れた“シカゴの牛角” 居合わせた客が驚いた「庶民派ディナー」の様子
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
「何か大変なことが起きているのでは…」米倉涼子、違約金の可能性を承知で自らアンバサダー就任のキャンセルを申し出か…関係者に広がる不安がる声
NEWSポストセブン
ドイツのニュルンベルクで開催されたナチ党大会でのヒトラー。1939年9月1日、ナチ・ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発した(C)NHK
NHK『映像の世紀』が解き明かした第二次世界大戦の真実 高精細カラー化されたプロパガンダ映像に映る国民の本音、老いて弱りゆく独裁者の姿
週刊ポスト
大阪・関西万博を視察された天皇皇后両陛下(2025年10月6日、撮影/JMPA)
《2回目の万博で魅せた》皇后雅子さまの気品を感じさせるロイヤルブルーコーデ ホワイトと組み合わせて重厚感を軽減
群馬県前橋市の小川晶市長(共同通信社)
「ドデカいタケノコを満面の笑顔で抱えて」「両手に立派な赤ダイコン」前橋・小川晶市長の農産物への“並々ならぬ愛”《父親が農民運動のリーダー》
NEWSポストセブン
萩生田光一元政調会長が幹事長代行へ起用(時事通信フォト)
《SNSで非難轟々》“裏金議員”萩生田光一氏が党執行部入りの背景 永田町関係者が明かす“総裁選での暗闘”と「香水がとてもいい香り」の珍評価
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(共同通信)
《やる気スイッチ講師がわいせつ再逮捕》元同僚が証言、石田親一容疑者が10年前から見せていた“事件の兆候”「お気に入りの女子生徒と連絡先を交換」「担当は女子ばかり」
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月7日、撮影/JMPA)
《再販後完売》佳子さま、ブラジルで着用された5万9400円ワンピをお召しに エレガントな絵柄に優しいカラーで”交流”にぴったりな一着
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷が“即帰宅”した理由とは
《ベイビーを連れて観戦》「同僚も驚く即帰宅」真美子さんが奥様会の“お祝い写真”に映らなかった理由…大谷翔平が見計らう“愛娘お披露目のタイミング”
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《山瀬まみが7ヶ月間のリハビリ生活》休養前に目撃した“スタッフに荷物を手伝われるホッソリ姿”…がん手術後に脳梗塞発症でICUに
NEWSポストセブン
京都を訪問された天皇皇后両陛下(2025年10月4日、撮影/JMPA)
《一枚で雰囲気がガラリ》「目を奪われる」皇后雅子さまの花柄スカーフが話題に 植物園にぴったりの装い
NEWSポストセブン