叙々苑説、清香園説のいずれかのみが正しいとも限らない。食べ物の発祥や発展は往々にして不思議なほど同じようなタイミングで可視化される。
現在に至る焼肉の流れは、1946(昭和21)年に東京で創業した食道園(翌年大阪に移転)と明月館(叙々苑の創業社長、新井泰道氏の出身店)の2店が礎になっていると言われる。以降、連綿と綴られた焼肉の歴史は、食肉流通の歴史とも密接に関わっている。
物事には必ず理由がある。戦後、貧弱だった冷蔵インフラが充実していくとともに「牛タンのメニュー化」がなされた。それでも独特の香りが気になる牛タンの食味向上のためレモンをかけるという発想が生まれた。これらの事象が同時多発的に起きたとしても不思議はない。その起源に思いを馳せながら網の上の肉を返し、肉に舌鼓を打つ。そこでふと脳裏をよぎるのが、流通のよくなった現代における佳店のタン塩にレモンが必要か──という問題だ。肉に思いを馳せ始めるときりがない。