そして、主役となる選手である。トライアウトは、カウント1-1から始まるシート打撃方式で進んで行く。投手は打者3人(昨年までは4人だった)と対峙し、野手は4打席ないし5打席に立つ。
ここ数年は“大物”の名がリストに並ぶことは少なかったが、今年は阪神を戦力外となった西岡剛(34歳で、参加選手中最高齢)、東京ヤクルトから構想外を告げられた成瀬善久(33)らも参加。ハイライトは、共に千葉ロッテに在籍していた2010年に日本一の栄冠を勝ち取った両者が対決した場面である。右打席から左中間を抜く二塁打を放った1歳上の先輩に軍配は上がった。
西岡のコメントには、行き場を失った野球選手の悲哀があふれていた。
「対戦前にロッカールームで成瀬と会ったんですけど、『お互いにやるべきことを必死で、どんな球でも思いきって来い。真剣にいく』という話はしました。やっぱり、成瀬がマウンドに立っているというのは、思うところはありましたね。身近な関係者には、最後はロッテのユニフォームを着て引退するとずっと伝えてきました。(2011年に挑戦した)メジャー(ミネソタ・ツインズ)で結果を残して、日本に帰る時にロッテに戻れるような野球人生を歩んでいたら、それは最高なことだったと思うんですけど、いかんせん、僕の力がなかったわけで……(2012年オフに自由契約となり、阪神に入団)。シナリオからしたら、かっこ悪い感じになりましたが、今はオファーを待つしかない」
しかし、このトライアウトから新たな居場所を見つけることがいかに困難であるかは、西岡はもとより参加選手なら誰もが知っているはずだ。一昨年は65人が参加したうち、NPBの球団に“再就職”できた事例は3人だけで、51人参加の昨年も3人である。それゆえ、過熱する報道とは裏腹に、かつては2回にわたって開催されていたトライアウトも数年前から1度の開催に縮小され、参加選手の数も減少傾向にある。
また、獲得を希望する球団は事前に選手にそのことを伝え、選手も状態を確認してもらうことを目的に参加するケースがある。今年はトライアウトの終了直後に、さっそく横浜DeNAが元巨人の中井大介(28)の獲得を検討しているとの報道があったが、おそらく横浜も中井のトライアウト結果(3打数1安打2四球)で判断しているわけではないだろう。既に12球団の編成が終了しているタイミングで行われるのがトライアウトなのだ。つまり、もう空席はない。トライアウトの結果によって新たな道が拓けていくことは、限りなくゼロに近い。
西岡や成瀬のような実績のある選手はまだしも、名前と足跡を球界に残せなかった選手にとっては、むしろ野球にけじめをつける「引退式」の色合いも濃い。
元中日ドラゴンズの選手で、在籍わずか3年で2013年に戦力外となったあと、同球団のマネジャーを務めていた関啓扶(25)は、5年のブランクを経て今回のトライアウトに参加した。
「記念受験みたいなことを言われましたけど、自分の中でそういう気持ちはない。野球をやりきりたかったんです。来年からは野球以外の道も考えている。その踏ん切りをつけるための目的もありました」
結果は1奪三振2四球。「これが今の実力です」。もし声がかからなければ、専門学校に通い、歯科技工士を目指すという。
「選手にとって、歯は大事です。野球と歯は切っても切れない感じなので、そういう面から選手を応援、サポートしていけたら……」