事件後、警察の関係者がXの実家、そして周辺宅にも聞き込みに訪れたが、Xについて誰もしゃべることはなかったという。
「隠ぺいっていわれりゃそうかもしれませんが、あの一家のことを知っとれば、あまり何も言えんですよ。お母さんも気の毒でね…」(Aさん)
このように、家族や周辺が薄々気が付いている例もあれば、知らないうちに家族や親族、そして恋人などが巻き込まれるパターンもある。大阪市内に住む女性・Bさん(50代)は、甥っ子に頼まれて預かっていた荷物を、言われるがまま近隣県の駅にあるロッカーに預けた。後にそれが特殊詐欺の「被害金」であることが発覚。捜査では彼女が「善意の第三者」であることが認められ、罪に問われることはなかったが、実は「甥っ子」を守るために、ウソではないが様々な「甥っ子に有利な証言」を行っていた。Bさんの夫が証言する。
「甥っ子が“仕事の資料”だと言って置いていった荷物を、妻がその後言われるがまま、駅のロッカーに入れました。最初は“変なことやらすな”と言っていましたが、お礼にメシ食わせたりしてくれてね。本人がきちんと独り立ちしているなら多少は…ということで何も言わなくなった。
それからすぐ、警察から電話がかかってきて、甥っ子がオレオレ詐欺で逮捕されたと聞きました。妻は、そんなはずはないと信じたいがあまり混乱し、本当は覚えていたはずのロッカーの場所や日付などを忘れてしまい、証言ができませんでした。中身が現金かもしれない、と思ったこともありましたが、甥っ子を疑うようで聞けなかった。隠したのか、といわれればそうかもしれない…。でもパニックでどう話せばよいか、何が起こっていたのか思い出せず、本当にしゃべることができなかった」(Bさん夫)
かつて特殊詐欺に関わった男性・Cさんは、詐欺師たちが家族や親族に仕事を分担させることについて「最近はよくあること」と説明する。
「特殊詐欺事件は、一人が逮捕されると芋づる式に関係者が逮捕されます。以前は犯罪のプロたちが緻密に絡み合っており、仲間を売ることもなかったために、突き上げ(捜査)されても、関係者のガラ(体)は無事でした。最近は、詐欺に関わるのが素人だったり若者だったりで、身近かつ、自身の事を信用してくれる親や兄弟など身内を使うことも多いのです。身近な人間だから、本人が犯罪に関わっていたと知っても守ってくれる可能性がある、なんて甘えた気持ちもある。
さらに言えば、近頃は出し子や運び屋をSNSなどで募集する例が非常に増えている。詐欺家族の父親も、金に困ってそういったコミュニティを使って、犯罪集団とつながったのでしょう。息子が出し子、運び屋等になって急に金払いが良くなったが、母親としては気が付かないふりをしているだけでなく、詐欺息子が稼いだカネに、家族が群がるなんてこともあります」(Cさん)
これも日本人の貧困化が進んだ結果、などと言ってしまえば簡単なのかもしれない。しかし、犯罪で得たカネで潤う一家があれば、カネを取られた結果すべてを失い、命を自ら断つ人だっている。家族ぐるみで犯罪に手を染めたのに、搾取されるばかりで貧困から抜け出せないケースも珍しくない。社会を構成する人間の一人として「終わっている 」ことにならないためにも、家族が生活するための手段としてまず犯罪に手を染めるというやり方は、広まってはならない。