それを脱却するには〈憲法の改正こそが、『独立の回復』の象徴であり、具体的な手立て〉(前掲書)という改憲論に結びついている。
だが、憲法改正も「合格ライン」がどんどん下げられている。首相は、現憲法は占領下にGHQに押し付けられたものだという「押し付け憲法論」に立ち、新憲法制定=抜本改正論を唱えてきた。
ところが、昨年5月に読売新聞紙上で発表した首相の改憲私案は、憲法9条を残し、「自衛隊」の保有を盛り込んだ条文を追加するという、いわゆる加憲案だった。自民党改憲派からは「9条改正に慎重な公明党の賛成を取り付けやすくするために大胆な妥協を図った」と受け止められている。
◆金正恩が首を縦に振るなら…
拉致問題でも、「被害者全員帰国」という安倍首相のスタンスに変化があった。北朝鮮問題に詳しい伊豆見元・東京国際大学教授が指摘する。
「安倍首相は今国会の所信表明演説の中で、『拉致、核ミサイル問題を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化をめざす』と語った。“不幸な過去の清算”というのは経済支援のことで、北にすれば非常に魅力的な発言ですが、安倍首相はこの言葉をずっと使わなかった」
北朝鮮側は日本政府にひそかに「拉致被害者2人の存在」を伝えている。今年3月に共同通信が2014年の日朝交渉の際、北朝鮮側から政府認定拉致被害者の田中実さんと特定失踪者の金田龍光さんが「入国していた」との情報が伝えられたことを、実名をあげて報じた。