「自己責任」をめぐる侃々諤々の議論が起こるのは、安田さんのような戦場取材のケースに限らない。
2012年にお笑い芸人の親族が生活保護を受給していたことが発覚した際には、自民党の片山さつき参院議員(59才)が、「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です」とツイートし、国会議員として生活保護の削減に取り組む意向を示した。生活が困窮しても国を頼るな、自分の責任で何とかしろ、という主張である。
2015年に中学1年生の男女が早朝の街で連れ去られ、遺体で発見された寝屋川市中1男女殺害事件や、2017年にネットを媒介にして9人の男女が殺害された座間9遺体事件などの凶悪犯罪でも、「子供が真夜中に出歩くのはおかしい」「見知らぬ男の家に行くのも悪い」などと、“被害者の落ち度”を責める自己責任論がネット上にあふれた。
◆攻撃性を帯びる「自己責任」
作家の北原みのりさんは、「自己責任論は弱い立場の人たちに対して言われることが多い」と指摘する。
「顕著な例がわいせつやセクハラ問題です。例えば東大男子学生3人が起こした強制わいせつ事件(2016年)の際は、『被害女性が東大生を狙っていた』とバッシングされましたし、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元テレビ局記者にレイプされたと訴えた際(2017年)も、『夜遅くに男とデートした彼女もそのつもりだったんだろう』と叩かれました。
またシングルマザーなどをめぐる貧困問題でも、『結婚相手を見極めなかった女が悪い』『貧乏なのは努力が足りないから』と自己責任を口にする人が多いことに驚きます」
弱い立場にある女性に向けられる自己責任論に、北原さんは忸怩たる思いを抱く。
「“女は男に従うもの”“女は責任を取らなくていい”という時代が長く続き、自立を果たせなかった女性にとって、“自分の人生は自分で決める”ことを意味する『自己責任』という言葉には、とても尊い価値がありました。
ところが最近は、窮地に陥った女性に対し、“自己責任だから仕方ない”という声が投げかけられるようになった。自己責任という言葉が、人の尊厳を奪って被害者を苦しめるものになっています」