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2018.12.13 07:00  SAPIO

『安倍公房とわたし』著者女優・山口果林が語る「人生の書棚」

〈その桐朋学園時代、山口さんは、ゼミをもっていた、妻子ある安部公房氏と恋人関係になり、安部氏が1993年に亡くなるまで20年以上関係が続いた〉

 読書に関してだけ言っても、安部さんからは大きな影響を受けました。安部さんが勧める本は必ず読み、安部さんが評価しないものは文学賞を取ったものでも読みませんでした。身近にいたおかげで、作家がいかに身を削ってものを書くかもわかりました。

 その安部さんが、1973年に演劇集団「安部公房スタジオ」を立ち上げたとき、私を含めた俳優全員に読むよう求めたのが『攻撃 悪の自然誌』(みすず書房)という本。世界的な動物行動学者が動物の攻撃本能について解明したものです。当時、安部さんは、新劇の俳優がストーリーや情緒を伝える道具になってしまっていると批判し、もっと俳優の肉体や生理を重視すべきだと主張していました。この本以外にも生物にとって空間が持つ意味を解読した『かくれた次元』(エドワード・T・ホール)という本なども勧め、それらの本の内容を稽古に取り入れていました。従来と全く違うアプローチで芝居を作る期待感があり、みんなわくわくしていましたね。この本はその当時を思い出させてくれます。

 安部さんが亡くなった翌年から、被爆者の体験談の朗読劇『この子たちの夏』(現在は『夏の雲は忘れない』に改題)に出させていただき、今も続けているのですが、私は戦後生まれなので、戦争中や戦後直後のことを理解したくていろいろな本を読みました。そのなかで出合い、忘れられない本になったのが『敗北を抱きしめて』(岩波書店)です。戦後の復興期の日本を庶民の生活レベルで描いていて、当時の庶民のことを皮膚感覚として理解できます。著者が外国人(アメリカ人)ということで、右だ、左だの国内の政治的対立とは距離を置いているのもいいですね。憲法が変わるかもしれない岐路に立っている今、こうした本によって、憲法ができた当時のことを振り返ってみるべきだと思います。

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