11月1日の宮崎公演では中3日の疲れを見せず、翌日に体力を温存することもなく、全力で踊っていた。張り切り過ぎたのか、最後の曲で舞台の踊り場に出ていった際、勢い余ってステージから落ちてしまい、右腕を強打してしまう。
公演終了後、再びバスローブ姿でステージに現われた田原は笑顔で観客に手を振りながら、右腕を押さえていた。時には左腕を押さえ、ギャグにして笑いを誘っていたものの、本当に右腕は大丈夫なのか。
そんな状態で、2日連続公演の2日目となる鹿児島公演を乗り切れるのか。前日にも増して体力的に厳しくなるため、振付を省き、動きも押さえ気味にするだろう。むしろ、自分の体を労る意味でも、そうしてほしいと私は願った。
不安の中、幕が上がった。1曲目の『海賊』から田原はいつものようにステージを所狭しと、右に左に足を運んでいった。2曲目の『アントニオのBar』の最後には、両膝を畳んでやや左にしゃがみ込む技を繰り出す。序盤、いつもと変わらない動きを見せた。
MCでは、恒例の「皆さん、こんばんは! 1、2、3、4、5、6、7、ハッピー!」という挨拶をすると、前日の宮崎公演と同様に「1、2、3」の後に、何人もの観客が「ダァー!」と叫びながら拳を突き上げていた。
それもそのはず、28年ぶりの鹿児島公演なのだ。お約束を知るはずもない。私はアントニオ猪木の浸透力を実感するとともに、この日の観客も田原のライブに初めて訪れたか、久しぶりに訪れたケースがほとんどだと確信した。
逆に言えば、「田原俊彦ここにあり」と見せつける格好の場面がやってきた。初見の観客からすれば、日程のことなど気にしないだろうし、まして田原がどのくらい踊るのかも分からない。出来の良くないステージを見せれば、「なんだ、衰えたな」と失望される。それは田原俊彦にとって、最も屈辱的なことだ。