ここから『夏の恋人』『初恋』『ジュリエットへの手紙』と初期のアルバム曲を続ける。『初恋』では会場からファンの女性をステージに上げて用意したベンチに座らせ、田原は横に腰掛けながら穏やかに歌った。大半の観客は知らない曲のはずだが、会場の雰囲気は完全に田原のモノになっていた。
暖かい空気に包まれた後、『ハッとして!Good』『恋=Do!』『ピエロ』『シャワーな気分』『原宿キッス』というシングルメドレーが始まった。
開演から既に1時間以上が経っている。それでも、田原は『恋=Do!』の手と足を同時に動かす振付、『シャワーな気分』でマイケル・ジャクソンのように足を前に蹴る動作を何度となく繰り返し、2日連続公演の疲れも見せない。
4日前の中野サンプラザで1度失敗した『原宿キッス』のサビの終わりの振付では、開脚をしてからすぐ立ち上がった。この時、表情は苦痛に歪んでいた。
無理をしなくていい。1つ、2つ振付を省いたところで、誰も文句は言わない。それでも、田原はひとつひとつの踊りを忠実に行なっていた。
メドレー後に休憩を取るかと思いきや、続けざまに『チャールストンにはまだ早い』で激しく踊った。「ステージが俺の居場所だ!」という魂の叫びが聞こえてくるようだった。
常に必死に踊る男からすれば、いつも通りに振付を省かず、足を上げて、ターンを繰り返し、ムーンウォークもして、あらゆるダンスを見せていくのは当たり前かもしれない。
しかし、57歳という年齢を考えれば、むしろ手を抜いたほうがいいのではないか。自分の身体のことを考えて、あまり一生懸命にならないでください──。私は、そんなことさえ考えていた。