そんな山根氏の自宅のリビングには、2歳だった時の両親との記念写真を挟むように、会長時代に大会を視察に訪れた今上天皇をおもてなしする2枚の写真が飾られていた。

「天皇陛下に、わざわざ声をかけていただいた。あれには感激してねえ。頭を下げたまま、『ハハーッ』って感じで、頭を上げられなかった。わしはね、母の国である韓国も、北朝鮮も、愛しています。だけど、日本国籍を取得した以上、日本人として生きています。日本人として、日の丸を愛し、法人の代表として、日本ボクシング連盟を代表する会長として、これまで全世界を飛び回って日本の素晴らしさを伝えてきたつもりです。私の経歴には、何一つ、隠し事はありません」

 日本ボクシングを再興する会によって告発された12項目──判定への介入や過剰な接待要求などがなかったと主張するのであれば、解雇無効を求めて日本大学を提訴した内田正人・日大アメリカンフットボール部前監督や、虚偽の告発をされたとして、田南部力氏を名誉毀損で訴えたレスリングの栄和人・元至学館大学レスリング部監督のように、反撃の訴訟に出る考えはなかったのか。

「弁護士に相談したら、支度金が200万円必要やという話やった。わし、貧乏やから、払えへん。今はねえ、こんな幸せな生活はない。連盟におる時は、下におる理事や選手との人間関係に悩み、2020年の東京オリンピックに向けて、重たいモノを背負っておった。それが全部なくなりましたから」

 山根氏の新しい名刺には、肩書きとして「無冠の帝王」(英語表記はUncrowned King)とあった。

「わしは終身・無冠の帝王や。これからは芸能人として生きていく。79歳になって、夢も目標もない。現在、仕事と言えば、テレビ出演ぐらい。山根明を冷静に評価していただいて、呼んでくださる番組にはどの番組にも出たい」

 インタビューのあと、山根終身会長時代に使途不明の支出2400万円が見つかったことも、日本ボクシング連盟の現体制によって明らかになった。無冠の帝王は新たな疑惑にどんな釈明を用意しているのだろうか。

◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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