平成元年当時の韓国は盧泰愚政権(1988─1993年)だった。この時代、「ソウル五輪と民主化」で韓国の国際的イメージが大きく改善した。しかし日韓関係ではいわゆる慰安婦問題に火がついた時代だった。

 今にいたるまで日韓関係を揺さぶり続ける慰安婦問題が、この時期になぜ登場したのか。その理由は“民主化”である。

 韓国における民主化というのは、1960年代の朴正熙政権(1961─1979年)に始まる保守・軍事政権時代の“過去否定”のことだった。慰安婦問題がそれまで表面化しなかったのは、男女の性的問題であり、社会的通念として表向き話題にするものではなかったからだ。このタブーが民主化によって破られた。

 民主化で性的表現の自由化が進んだこととも深く関連している。筆者の記憶では、慰安婦問題もテレビドラマ化されることで一般化、大衆化し“市民権”を得た(MBC『黎明の瞳』1991─1992年放映)。過去否定だから、過去の政権下での日韓国交正常化への批判も表面化する。否定的面が強調され、慰安婦問題は隠されていた懸案として脚光を浴びたのだ。

 1991年8月、朝日新聞は後に問題になった「元慰安婦の初証言」を特ダネとして報道したが、当時、筆者は、今では伝説的になっているこの元慰安婦(金学順)のことは報道しなかった。理由は朝日新聞に先に書かれたということもあったが、元慰安婦の経歴を知るにおよんで違和感を持ったからだ。

 彼女は「貧しい家庭の出身で、幼くして他家の養女となり、14歳の時にキーセン学校に出され、17歳の時に養父に連れられ中国に行き、日本軍人相手に数ヶ月、慰安婦をした」というもので、それまでのいわゆる従軍(!)慰安婦のイメージとは違っていたからだ。このどこに日本の国家的責任があるというのか。

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