これを補うのに、35万人程度の外国人では到底足りないばかりか、負の影響のほうが大きく広がる。企業は安価な労働力さえ手に入ればいいのかもしれないが、就労先の地域では、外国人の住居確保、医療や福祉・年金面の対応など、公共部門のコストが積み上がる。
実際、ここ数年で低賃金の外国人労働者が急増した地方自治体は、日本語を話さない子供の教育や、病院での意思疎通など、山積する問題への対処に疲弊している。
改正入管法は、建設、介護、農業、外食、ビルクリーニングなど14業種で外国人に門戸を開く。だがそれは、14業種を「日本人が働きたがらない仕事」と認めて、外国人を低賃金で働かせることを意味する。
今、日本を訪れる外国人が増えている一因は、日本人がそのような現場で働く人に対する敬意を持つからだと私は思う。しかし、改正入管法の影響で「低賃金の単純労働は外国人の仕事」という認識が日本に定着すれば、職業に貴賤なしという日本人の美徳が損なわれはしないか。外国人であるだけで、「能力がないから仕方ない」などと不当に評価する恐れすらある。
そうなれば、日本は先人が築いた魅力を失い、国力が削がれて、やがては国そのものが滅びるだろう。
日本になくてはならない建設、介護、農業といった現場の仕事こそ賃上げして、日本人が率先して担うべきである。「現実に人の役に立つ仕事」を尊ぶ社会を壊してはならない。