セレブの街に降って湧いた今回の騒動を、地元住民はどう受け止めているのか。建設予定地の近くに半世紀以上前から住む80代女性はこう語る。
「世間でいろいろ言われていたから、どうなんだろうと思い、昨年12月の説明会に参加しました。区がしっかり運営するなら反対ではないし、チャラチャラした店ができるより公的な施設の方がよほど安心できる。ただ、説明会で区の担当者の受け答えに曖昧な部分があったのが残念です。
私が嫁いできた60年前は向こう三軒両隣で近所づきあいがあったけど、今じゃこの辺りを通るのは知らない顔ばかり。それでも時代とともに町が変わっていくのは仕方ないことです」
昭和初期から店を構える老舗食料品店の女将は、静観の構えだ。
「古くからいる者は別に賛成も反対もないですよ。南青山のブランドは住民みんなでつくってきたものだし、それはこれからも変わりません。いつ説明会をしたのかも知らなかったけど、必要な施設だからつくるのだと思います」
周辺を歩いて声を拾った限りでは成り行きを見守る住民がほとんどで、強硬な反対派はいなかった。むしろ、説明会での反対派の意見について、「あまりに言い方が悪く、町全体にマイナスの印象がついてしまったのではないか」と懸念する声も聞かれた。
一方で、娘が近辺の小学校に通っているという母親は、こんな複雑な胸中を明かす。
「児相は必要な施設だと思うから、最初は歓迎していたんです。でも、もしかしたら児相の利用者がウチの子と同じ小学校に通うかもしれないと聞いて、少し不安になりました。もし本当に児相の子も通うならば、どういう子供が通う可能性があるか知りたい。そのあたりの説明は住民説明会ではされなかったので、小学校の保護者向けの説明会を開いてほしいですね」
気がかりなのは、現場で取材を進めるうちにこんな話が出てきたことだ。地元住民が重い口を開く。
「児相の設立に強く反対しているのは、『青山の未来を考える会』という団体です。実はこの会を後援しているのは南青山のある不動産会社だという話があります。同社の社長はもともと港区民ではなかったにもかかわらず、反対運動を扇動するために住民票を移したともいわれているのです」
実際、「青山の未来を考える会」の連絡窓口はこの不動産会社になっている。事の真偽を確かめるため、同社社長に取材を申し込んだが、「ご要望にはお応えできません」の一点張りだった。
利権を得ようとする不動産会社の思惑が、住民の抱える漠然とした不安をあおり、騒動に発展させたというのが真相のようだ。
※女性セブン2019年1月31日号