芸能

光石研『デザイナー 渋井直人の休日』はなぜクセになるのか

光石研の初主演作にハマる人が続々(テレビ東京HPより)

 作品の良し悪しは、必ずしも予算では決まらない。そう実感できる瞬間はアートの醍醐味の一つだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、深夜ドラマについて言及した。

 * * *
 最近、日本国内でもそれらしき作品が見つかり、にわかに注目されている謎のアーティスト、バンクシー。イギリス出身らしいということ以外分かっていない覆面芸術家です。そう、「バンクシー」という名が世界に鳴り響いたのは、昨年10月のオークション現場でのことでした。

 サザビーズの会場で1億5000万円で落札された絵画《風船と少女》。落札の槌が響いたその瞬間、額縁に仕込まれたシュレッダーが作動し、絵は人々の目前で無残にも裁断されていきました。

 唖然としかいいようのないその光景。

「アートは、一部の富裕層が所有したり金融商品のように売買したりするものではない」というバンクシーのメッセージが浮き彫りに。と同時に「コンセプチュアルアート」の面白さも世界中に伝わっていきました。

 一つのアート作品によって巻き起こされる反響・現象。それを事前に設計する「コンセプチュアル」な行為。バンクシーのアートは、描かれた絵よりも「コンセプト」こそが表現対象であり伝えたい対象なのでしょう。

 さて。現代アートとは分野もスタイルも違いますが、「コンセプト」の面白さを追い求めるという意味で、深夜ドラマの中に個性的な作品が見てとれます。言ってみれば、物語の筋立てやストーリー展開の面白さ以上に、ドラマの「コンセプト」が際立ち、光を放っている個性的な作品が登場してきています。

 その筆頭が『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京・木曜深夜1時)。

 渋井直人(光石研)という52歳の独身デザイナーが繰り広げる日常風景。渋井は個人事務所を持って活躍しているデザイナー、いわば都会の成功者。しかしどこかミスマッチ感が。まずそれを象徴するのが、似合っているとは言いがたいダッフルコートとマフラー姿です。

 浮いている。着こなせていない。光石さん演じる「オシャレな業界人」の「微妙なズレ感」が見事に結晶しています。

「かっこ付けオヤジの痛い日常」「チャラくないのに舞い上がってしまう滑稽さ」。都会生活に適応したかと見えつつも、どこかで右往左往しているチグハグ感こそ、このドラマの「コンセプト」なのでしょう。

 光石さんのナレーションも内面の独白としてズレ感を伝えています。オヤジの小さな見栄とプライド。切なくて情けない。心のつぶやきが「あるある感」をぐっと高めていき、倒れても前を向く健気さは、ついつい応援したくなる。

 そう、このドラマは「ささやかであっても、消せないズレ」がテーマでありコンセプト。それは多くの人のリアルであり、ペーソスが漂い、クスッと笑いを誘う要素。という意味で、まさにコンセプチュアルなドラマです。

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン