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承久の乱 『仁義なき戦い』のような血湧き肉躍るドラマ

東大教授の本郷和人さん(撮影/政川慎治)

【著者に訊け】本郷和人さん/『承久の乱 日本史のターニングポイント』/文春新書/886円

【本の内容】
「あとがき」にはこんな本郷さんの言葉が。〈エラそうに言わせていただきますと、構想二十年、鎌倉幕府とは何か、をずっと考え続けてきたぼくだからこそ書けた本だと自負しています。いつもはこんな夜郎自大なことは言わないのですが、今回は特別です。えへん!〉。〈「おもしろく、わかりやすく」〉そして〈ノリノリで書いた〉という本書からは、まるで目の前で授業を受けているような、先生の熱い声が聞こえてくる。

 天下分け目の戦い、と呼ばれるものは日本史にはいくつかあるが、1221年の「承久の乱」こそがターニングポイントだと本郷先生は力説する。

「希代のカリスマ後鳥羽上皇を北条義時が討ち破り、その後、明治維新にいたるまで、650年続く『武士の天下』がそこで始まったわけですから」

 陰謀、暗殺、裏切り。鎌倉幕府と朝廷との間で起きていたのは、ヤクザ映画の『仁義なき戦い』も真っ青の、血なまぐさいパワーゲームだ。

 鎌倉幕府の実権を握る北条義時の追討を後鳥羽上皇が命じるまでに何が起きていたのか。鎌倉幕府の政治体制を「源頼朝とその仲間たち」と名づけるなど、教科書とはまったく違った面白さ、わかりやすさで解説する。無味乾燥な年表から、血の通った人間が一人ひとり立ち上がってくるようだ。

「あんまり大上段に振りかぶっちゃうとドン引きされそうで言わないようにしてるんですが、われわれの社会を人間が動かすように、歴史を動かしてるのも人間です。彼らがこういうふうに動いたから、いまの俺たちがいるんだなって、そういうことが読者に伝わればいいなと思っているんです」

 戦いをしかけたものの実力をともなわず、あっけなく敗北した後鳥羽上皇は幕府軍を率いる北条泰時に使いを送る。伝えたのが、全面降伏ともとれる「院宣」だ。

「完全降伏の文書で、武力放棄の宣言です。この文書こそ、『承久の乱』の歴史的意義を表すものなんですね。平和だとか自由だとか、当たり前のようにいま手にしているものが、昔は当たり前じゃなかった。じゃあ、どういうふうにぼくたちが手にしてきたか、そのかけがえのなさを、歴史を通して知っていただけるといいなあと思っております」

 史料に基づきつつ、同時に史料に残された数字のいい加減さも指摘する。緩急自在な語り口は、若いころから海音寺潮五郎や司馬遼太郎の歴史小説に親しんできたからこそだろう。

「歴史は科学だ、という考え方もあるけど、物語による歴史もあっていい。ぼくはそういう語り手でいたいな、と思ってますね」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年3月7日号

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