会談は微妙な雰囲気で進んだ。1日目の1対1の会談では、「全ての人が喜ぶ、立派な結果が得られると確信している」と、前向きな発言をした金委員長だったが、膝の上で左手首をひねるように手の甲を下に向けていた。金委員長の癖なのだろうか?やってみるとわかるが、この仕草は左手に負荷がかかる。言葉とは裏腹に、不安や焦りでかなり緊張していたのではないだろうか。2日目には、当初の余裕の表情とは打って変わり、質問を重ねる記者らに「我々には1分でも貴重」と訴えたほどだ。
そんな金委員長の横で、トランプ大統領はジャケットの前を合わせる仕草を見せていた。その仕草からは、「立派な結果になるよう腹を割って話そう」という印象は受けなかった。笑顔は見せるのだが、その笑顔もすぐに顔から消えていく。友好ムードを演じていることがわかる。会談終わりの握手では、大統領は右手を大きく振り被るように差し出した。詳細に話を詰めていこうというより、まるでこれから対戦する相手に檄を飛ばすような、ハッパをかけるような握手だった。
2日目の1対1の会談では、2人の位置が入れ替わり、トランプ大統領が向って右、金委員長が左になった。それだけでトランプ大統領の主導権が強くなったような印象がしてくる。大統領は、顔をしかめたり視線を外すことが多くなり、金委員長も表情が硬くなる。協議の合間にホテルの庭を歩く両首脳の姿が捉えられたが、前回よりも二人の間の距離は離れていた。そこに前回のような友好ムードは見られなかった。
その後の拡大会合では、金委員長が「非核化の準備はできているのか」という外国人記者の質問に答える一幕があった。その答えにトランプ大統領は身を乗り出したが、それ以外は、ほとんど金委員長と視線を合わせることはなかった。つまり、会談冒頭から大統領が、非核化は「急いでいない」と述べたように、前回ほど会談に前のめりな感じはなく、合意に向け切羽詰まった印象もなかったのだ。
妥協して「合意」となれば、米朝に関するトランプ大統領の成果もここで区切りとなる。日本と違い、米国民の関心はあっという間に消えていくだろう。だが、決裂したことでツァイガルニク効果が生じれば、人々の興味や関心を次へとつなぐことができる。そのうえで「完全な非核化」を達成できれば、大統領にとって大きな成功になるはずだ。米国側がそれを意図していたとは思わないが、少なくとも、決裂によって北朝鮮に“勝利”したのは米国と言えるだろう。