オレオレ詐欺の名簿を使う空き巣は実は以前からいるにはいた。でもリスクが高すぎて不人気だったのに、訳のわからない素人を(オレオレ詐欺に)引っ張ってくるのが珍しくなくなった頃から、ついでに泥棒もさせる連中が増えた。このままだと、騙す脅すどころか殺しだってやるかもしれないとは思っていた」(Z氏)
これまで、詐欺師はずっと詐欺をなりわいにするし、窃盗犯は窃盗だけをするのが犯罪者の行動様式だった。詐欺を得意とする犯罪者は、わざわざ不得意な強盗や窃盗、まして傷害や殺人などはしなかった。慣れないことをして発覚し、逮捕されては元も子もないからだ。ところが、最近の犯罪ではその不文律が崩れてきているらしい。詐欺グループから窃盗や強盗までするグループが出現したらしい現実の背景には、オレオレ詐欺が集中的に取り締まられたことも原因だ。
オレオレ詐欺は細かく分業することでグループ全体の摘発を免れる側面がある。細かく分けられた分担のうち、とくに苦労しているのは、電話をかけたり金を受け取る人員集めだ。とくに金を受け取る仕事は、騙す相手に会ったり、防犯カメラに写ることがあるため逮捕のリスクが高い。そのため、もし逮捕されても詐欺グループの末端という最小限の犯罪に止める、組織を揺るがせない信用がおける人間を集めていた。しかし、最近では信頼できる人を集められない。
人手不足に悩んだ詐欺グループが人材募集に活用するようになったのが、ネット掲示板やSNSだ。そういった手段で集められた人員は、当然ながら「仕事」へのプロ意識が低いため、何をやらせても雑になる。彼らがたまたま担当したオレオレ詐欺の仕事で目にした名簿を元に、新しい仕事に生かすつもりで挑んでいる窃盗についても、お粗末な犯行ぶりだ。
もし、前述のオレオレ詐欺元幹部たちが言うように、得意ではない犯罪に簡単に手を染めるのに、慎重さのかけらもない人間たちが今回の一連の事件にも関わっているのだとしたら。それならば、いろいろとつじつまが合うと指摘する声もある。大手紙警視庁担当記者の話。
「渋谷区と江東区の事件は同一犯による犯行とみられていますが、防犯カメラに三人バッチリ映ったり、車で逃げるところを市民に目撃されていたりと場当たり的です。渋谷の事件では死人が出ず、江東区の事件でも粘着テープやラップで被害者を縛り上げましたが、鼻にはかかっていなかったから、初めは殺すつもりはなかったのでしょう。また、部屋が激しく荒らされていたにも関わらず、部屋には現金が残されていたなど、いかにも素人の犯行です。殺すつもりはなかったのかもしれないが、逮捕されれば殺人はつかなくとも、強盗致死などで重い量刑が求刑されるはずです」(大手紙警視庁担当記者)
捜査関係者も続ける。
「事件後の足取りを調べると、渋谷区の事件で使われたのと同じ車が江東区の事件にも使用されていた可能性が高い。いずれも犯人は誰かに着せられたような黒っぽい同じ服装で、誰かにやらされているという見方が濃厚。現状では“アポ電”が在宅を狙ったものなのか、不在を狙ったが偶然家人と遭遇したのか判然としないが、金を持っている老人なら縛って脅せばどうにかなる、というような浅い考えの犯行であったことは確実。粘着テープなどは持参していたが、包丁などの凶器は持参しておらず、計画的な殺人であったかはわかりませんが結果、被害者は亡くなってしまった。もちろん単なる結果論ではない。犯行は極めて悪質。ある程度、犯人の目星はついており、これから詰めの捜査に入る段階」(捜査関係者)
ついに起きてしまった殺人事件。高度にシステム化、組織化されたオレオレ詐欺を厳しく取り締まった末に人員不足となり、奇妙な言い方になるが、詐欺に関わる人材の劣化を招いている。今回の一連の事件が、もし、その結果として起きた悲劇だとしたら、これほど皮肉なことはない。