実際には必要がないリフォームを、このままだと家が壊れるなどと言って、主に高齢者にしつこく営業をかけ、押し売りのようにしてリフォーム工事を発注させていたのが、Y氏が手がけていた新しい仕事だった。もちろんこの手の「リフォーム詐欺」は十数年前にも存在したが、今回新たに名簿を使ったその仕事は悪質リフォームにとどまらなかった。名簿に資産状況、証券保有の有無など独自の情報を加えた”金持ちリスト”を元にして、太陽光発電パネルの取り付けや、当時の流行だった「仮想通貨投資」の勧誘にまで手を広げていったのである。
そんなとき、Y氏が率いていたグループが、訪問先の留守宅で窃盗を繰り返していた事実が発覚したのである。
オレオレ詐欺グループに元々は身を置いていたとはいえ、窃盗や暴行などのわかりやすい「犯罪」を極端に嫌っていたY氏。窃盗行為を働いた部下を詰問したが、時すでに遅し。Y氏の目が届かないところで、すでに窃盗グループ結成され活動していたという。元同僚だった縁でその顛末を聞いたX氏は、ため息を混じりに言う。
「Y氏によれば、使っていた名簿がコピーされ、空き巣狙いの別組織に流出していたようです。今では、以前のように厳しい指揮系統を持った詐欺グループは少ない。ある意味で”ゆるく”なっている。Y氏の部下は全てについて口を割ったそうですが、空き巣実行犯グループについてはその後、所在が分からなくなったんです」(X氏)
相手との接触を嫌うはずの詐欺グループメンバーによる名簿を使った「空き巣」。事前に“アポ電”をし、とにかく相手が気づかないうちに、こっそりカネだけをスマートに奪い取るように見えて、彼らは効率的だと考えたのかもしれない。だが、空き巣には詐欺よりも、直接的なリスクがつきまとう。実際に家に赴き物色し金を取ってくるのは、目につきやすい「実働」だからだ。
今どき、人が暮らすところならば至る所に監視カメラがある。不自然な場所を出入りすれば、人目にもつく。まったく人目にふれず、監視カメラに写らずに行動するのは不可能に近いが、空き巣にはそういったリスクがつきまとう。思いつきでは実行出来ない犯罪であるがゆえに、その道の「プロ」ではない、付け焼き刃の人間がすることはあり得なかった。だが今では、慣れない犯罪に手を染める者が出現しているというのだ。
別の詐欺実行グループの元メンバーの男性X氏も、一連の強盗事件については“起こるべくして起きた”と言って憚らない。
「どんなにいい情報、名簿を持っていても、電話によるエス(詐欺の隠語)はやりづらくなった。報道のせいで、どんな田舎の年寄りでもオレオレについて知ってっから、パクられる(※逮捕される)可能性は以前より高いし人も来ない。前は、受け子でも知り合いづて、部下づてで(信用が)カタイ奴を用意できたけど、今日び受け子する奴なんてトッポい(※生意気な)奴ばっか。ネット掲示板とかSNSのバイト募集でやってくる奴なんだから…。そんな連中、何やるかわかんないしこっちも怖くて使えない。