ビームサントリー社の新作ウイスキー「LEGENT」
──会社規模ではサントリーHDのほうが大きいものの、スピリッツ(蒸溜酒)の分野ではビーム社のほうが歴史がある。大変なこともあったのでは?
新浪:それはもう、本音でぶつかり合いましたね。ビーム社側には経営を全部仕切りたいという気持ちがあったわけです。しかし一方で、サントリーの良さを理解し、会得してもらわなければいけない。「やってみなはれ」のチャレンジ精神、それに社会と共生するという利益三分主義。そこは譲れませんので、粘り強く説きましたね。
また、長期的にしっかりと腰を据えてビジョンを持って経営していく重要性も説明しました。米国企業は総じて短期利益を優先するので、ビーム社側のそういう考え方も変えてもらった。
そして何より、サントリーはただ飲料を作るだけでなく、「お客様への飲み方提案」まで徹底的にこだわる企業です。ハイボールのブームを作り出すことに成功したのはまさにそうした理念があったからだと思いますが、そうした発想、カルチャーはビーム社にはありませんでした。
──違う文化の会社が理解しあうのは大変では?
新浪:ウイスキーの製造部門はビーム社でいえばケンタッキー州の蒸溜所、当社は山崎蒸溜所(大阪府)が中心ですが、作り手同士のコミュニケーションは比較的、早い段階からうまくいきました。良いウイスキーを作りたいという気持ちは同じなんですね。
課題は営業部門でした。米国の場合、メーカーの仕事は卸店に販売した時点で終わり、その先は卸店の仕事と役割が明確に決められていました。
また、ビーム社は典型的なトップダウン型、サントリーはミドルマネジメント層が重要だと考えている。中堅幹部たちのモチベーションを上げなければダメだということも、口を酸っぱくして説明してきました。そこを理解してもらうべく、当社の中堅どころも渡米して胸襟を開いて話し合った。お互いがわかり合うのには2~3年かかりました。